疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
イベントの喧騒がひと段落し、会場を後にする頃にはちょうど午後四時を回っていた。
せっかくだし、モンスターラボにでも寄っていきたいところではあったが、今回の目的はそれではないため、泣く泣く断念した。
「ごめん、今日はこのあと別の予定が入ってて」
MAOさんが申し訳なさそうに手を振る。
「また今度、ちゃんとゆっくり話そうね」
「はーい! 師匠、また今度!」
ヨシノリは笑顔で手を振り返す。
こうして残されたのは俺とヨシノリ、そして後藤――コスネームは〝亜麻目シロップ〟の三人だった。
「さて、せっかくだしアフターしよっか」
後藤が小首を傾げて提案してくる。
「カラオケのバセラなら個室でゆっくりできるし、食べ物もそこそこ美味しいよ」
「いいね! 衣装箱あるからファミレスはちょっとキツいし」
ヨシノリが即答する。俺も異論はない。
ほどなくしてバセラの個室へ。
アンティーク調のソファと落ち着いた照明、そしてテーブルいっぱいのメニュー表。イベント後の高揚感に浸りながら、俺たちは適当に料理を注文した。
ハニトーに唐揚げ、ポテトがテーブルに並ぶ。
「「「お疲れ様でした!」」」
ジュースと烏龍茶で乾杯すると、自然と笑い声が弾けた。
「今日ホント楽しかったぁ!」
ヨシノリは両手を上げて伸びをしながら笑う。
「ヨシノちゃんってマジでコスプレ向いてるよね。見た目がいいし、キャラを表現するのもうまいし」
麻白がストローを噛みながら、感心したように言う。
「そんなに褒めてもハニトーはわけてあげないよ?」
「食べたかったら自分で頼むから盗らないよ……」
ヨシノリは照れ笑いを浮かべ、ハニトーを口に運ぶ。……この大きさの蜂蜜がかかったパンを食べるのか。
どうやら抑えていた分の食欲が爆発しているらしい。
「衣装もすごかったよね。まだまだ甘いところはあったけど、作り方レクチャーした側としても鼻が高いよ。あれ、一人で全部やったんでしょ?」
「うん。大変だったけど……やっぱり、キャラを好きな気持ちが勝っちゃったんだよね」
ヨシノリはフォークを置き、少し真剣な表情で言う。
「寝る間も惜しんで作って、体も絞って……正直しんどかったけど、それでもやってよかった。今日、あんなにたくさんの人に写真撮ってもらえて、話しかけてもらえて……生きてるって感じがした」
「すっかり沼ってるね」
その言葉に、後藤はにっこり笑った。
「てか、衣装で言ったらシロちゃんのアランもレベチで完成度高かったから」
「原作者的にはどっちも神だったけど」
「「神はあんただ」」
コスプレイヤー二人組にツッコミを入れられたが、そういう意味で言ったんじゃない。神って言葉は便利過ぎてこういうときはややこしいと思う。
「そういえば田中君って、小説家なんだよね?」
「ああ、漫画原作もやってはいるけど」
しかし、こう……まだ出版されていないというのが何とももどかしい気持ちになる。
今日のコスイベだって、二人は完成度こそ高かったが何のコスプレだろうってなるのがちょっともったいない気もしていたのだ。
「すごいよねぇ。作品を生み出すって」
後藤が楽しそうに笑う。
「好きだからやる。誰かに届いたら、もっと嬉しい。それって本当にカッコいいと思う」
「そうだな。コスプレと同じだ」
その言葉に、俺も自然と頷いた。
小説もコスプレも、根っこは好きという気持ちから始まる。
夢中になれるものがある。その姿を見守る仲間がいる。それだけで十分すぎるほど幸せなんだ。
「よーし、じゃあ次の合わせ企画はもっと大きくしよう! お兄ちゃんにもまた協力してもらって!」
「うん、私もやる!」
「体調だけは気をつけろよ」
「カナタもね」
俺の言葉に、ヨシノリは笑いながらピースをして見せた。
個室の中に笑い声が響く。窓の外は段々と暗くなっており、冬の始まりを感じさせていた。