疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第275話 最低限の土台

 期末試験前の放課後。

 夕陽が斜めに差し込む教室の隅に、俺たちは机を寄せ集めて勉強会を開いていた。

 ノートや教科書はもちろん、机の端にはポテチの袋やチョコの箱、ペットボトルの飲み物も置かれていて、勉強会というよりお菓子パーティーのような雰囲気になっている。

 シャーペンの芯が走る音、ページをめくる音の合間に、スナックを齧るポリポリという音が混ざる。誰かのため息や椅子のきしむ音などの生活音が妙に心地よい。

 

「いや、なんでだよ!」

 

 唐突にゴワスが叫んだ。

 開いていた教科書をバンッと叩き閉じて、机に突っ伏す。机がびくりと震え、置いてあったポテトチップスが数枚ひらひらと床に落ちた。

 食べ物を粗末にするな、殺すぞ。

 

「なんでプロゲーマーになるために勉強しなきゃいけねぇんだよ!」

「あー、また始まった」

 

 ヨシノリが頬杖をつき、呆れ顔になる。

 

「斎藤。あんた、さっきも同じこと言ってたじゃん」

「勉強は〝最低限の土台〟だよ」

 

 ナイトは冷静な口調で答えた。

 手を止めることなくシャーペンを走らせ、視線だけをゴワスに向ける。淡々とした声音なのに、不思議と説得力があった。

 

「夢のために土台って、俺はもう夢見つけたんだぞ!」

 

 ゴワスは勢いよく顔を上げ、机を叩いた。

 

「プロゲーマーになるなら、コンボ練習とかパーティー構築とか考えたりした方がよっぽど意味あるだろ!」

「はぁ……言うと思ったよ」

 

 俺はため息をつきながら、わざとゆっくり言葉を区切って返した。

 

「夢を追うためには親の支援は絶対だ。その親を説得するために土台がいる。大学っていうな」

「……親の説得か」

 

 ゴワスの眉間に皺が寄る。勢いを削がれたように視線を落とし、机に頬を擦りつける。

 

「大学に行っておけば、親に〝もしダメでも安心だ〟って思わせられる。逃げ道がある分、説得しやすいんだ」

 

 俺の言葉に、ナイトが頷いて補足する。

 

「内部推薦なら受験勉強をしなくてもいいし、テストで点さえ取れば進学できる。その方が練習時間も取れるし、効率的じゃないかな」

「効率的って言ってもなぁ」

 

 ゴワスは呻きながら頭を掻いた。髪が乱れて、ますます投げやりな雰囲気になる。

 

「要するに」

 

 ヨシノリがポテチを鷲掴みにして告げる。食事制限をやめた反動で彼女の食欲は留まることを知らない。

 

「大学は〝ゲームするためのお墨付き〟ってこと。親に堂々と言えるようになるんだから、やっときゃ得じゃん」

「うんうん。学校は入ったもん勝ちさー!」

 

 喜屋武が炭酸をぐいっと飲んで、満面の笑みを浮かべる。その声は弾ける泡のように明るい。

 

「俺だって作家をやりつつ大学は行くつもりだ。最悪、就職するとしても大卒の方が給料は高いからな」

 

 俺は肩を竦めながらも、現実的な補足を加えた。

 

「お前ら、全員して俺を勉強漬けにする気か」

 

 ゴワスは机に額を押し付けて呻いた。

 

「漬けというか、当然のことだと思いますよ?」

 

 アミが微笑む。柔らかい声音だが、芯は強い。

 

「夢があることは素敵です。そして、それを続けるための環境を整えることも同じくらい大事なんですよ」

 

 アミの正論に、ゴワスは返せず悔しそうに唇を噛む。その拳は机の下でぎゅっと握られていた。

 俺は空気を少し軽くするため、わざと軽い調子で口を開く。

 

「ただ上手いだけじゃプロにはなれないって言ったろ」

「っ!」

 

 ゴワスの目が揺れる。

 

「強いだけの奴なんて腐るほどいるんだ。自分からそんなのになるなよ」

 

 俺はシャーペンで机をコツンと叩いた。

 

「どう努力したか、何を考えて戦ってるか。大事なのはそこだ」

「どう努力したか、何を考えて戦ってるか……」

 

 ゴワスが呟くように繰り返す。その声はさっきより低く、どこか真剣さが滲んでいた。

 

「音楽も同じですよ」

 

 アミが柔らかく頷く。

 

「ただ上手なだけでは心に残らないです。そこにその人の気持ちや背景があるから、伝わるんだと思います」

「そうそう!」

 

 ヨシノリが勢いよく同意する。

 

「あたしだってさ、衣装が上手くできたときより、〝作品好きでやってんだな〟ってわかってもらえる方が嬉しいもん」

「熱が伝われば、どんな分野でも応援されるさー」

 

 喜屋武がにっこり笑い、シャーペンをくるくる回す。

 

「俺が見せるべき物語、か」

 

 ゴワスは深く俯き、視線を落とした。机の上の問題集に落ちたその影は、さっきまでの投げやりさとは違って見えた。

 俺はそこに畳みかける。

 

「だからまずはテストだ。大学って土台を作って、物語を紡いでいけよ」

「クソ、作家の言葉は重いんだよ」

 

 ゴワスはぼやきつつも、シャーペンを握り直した。

 その手には、さっきまでの迷いは薄れていた。

 

「わかったよ。やってやる!」

「おっ、決まりだね!」

 

 ヨシノリがぱんっと背中を叩く。明るい声が響き渡る。

 

「じゃあまずは学年10位以内だね!」

「鬼かよ!」

 

 冗談めかしたヨシノリの言葉に、ゴワスは顔を真っ赤にして叫んだ。

 ちなみに、俺は冗談のつもりはない。

 

「まあまあ、これも物語さー!」

「勉強と夢、両方やってこそです」

 

 喜屋武が楽しげに笑い、アミが静かに締めるように言う。

 ゴワスは渋い顔をしながらも、問題集を開いた。

 

 机に向かう姿は相変わらず不器用で不恰好だったが、その背中からは確かな熱が伝わってきた。

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