疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第276話 期末試験

 期末試験の朝は、いつもの登校風景とは違った空気に包まれていた。

 廊下は妙に静かで、すれ違う生徒たちの表情も硬い。

 教室に入れば、あちこちで小さなグループが固まり、最後の悪あがきとばかりに教科書をめくり、必死に試験範囲の暗記している。

 

 その熱気の中心にいるのがゴワスだった。

 髪は寝癖で爆発し、目の下には濃い影。何度も「あー、やべえ……」と呟きながら、まるで戦場に向かう兵士のような顔で教科書のページをめくっていた。

 

「……おいゴワス、大丈夫か?」

 

 俺が声をかけると、ゴワスは顔を上げて呻いた。

 

「やべぇ。マジでやべぇ。こんなに必死になって試験勉強したの、生まれて初めてだ……」

 

 机の端にはエナドリの空き缶が置いてある。必死さが伝わるというより、すでにグロッキーの域に達していた。

 

 一方で他のいつメンは一部を除き余裕そうだった。

 ナイトはいつも通りの冷静な顔でルーズリーフをぱらぱら眺めているし、喜屋武は「なんくるなるさー」とお気楽な調子で鼻歌まで歌っている。アミは相変わらずノートを丁寧に整え、ゴワスからの質問にも穏やかに答えていた。

 

 そんな中、唯一ゴワスと同じく余裕がなさそうなのがヨシノリだった。

 化粧で隠してはいるが、目元に残るクマは徹夜の証だろう。こんなときでも欠かさず化粧をしていることもあり、瞼の上ではトレードマークのオレンジ色のアイシャドウが輝いていた。

 まったく、徹夜なんてしたら集中力が落ちて逆効果だろうに。

 

「ヨシノリ。徹夜したのか?」

「ちょっとね。衣装作りよりマシだけど、テストはテストで地獄よ」

 

 そう言って苦笑いするが、その頬はファンデでも隠しきれない疲労感に覆われていた。

 やがてチャイムが鳴り、現国担当の長谷川先生が入ってくる。

 

「お前ら、どうせ一夜漬けなんてしても無駄なんだから潔く諦めろー」

 

 気怠げな声と共に答案用紙が配られ、長谷川先生の合図で一斉に筆記具の音が走った。教室は紙をめくる音と、シャーペンの擦れる音で満たされる。

 出題範囲は教科書からだし、文章問題は一旦飛ばす。

 先に漢字問題からササっと終わらせ、文章問題も予想通りの問題しか出てこなかった。長谷川先生の出題傾向から予想した疑似テストを作ってゴワスに解かせておいたのは正解だったな。

 十五分で全問解き終わり、見直しをしたら自己採点満点だった。

 

 うーん、ちょろすぎる。そして、暇だ。

 

 仕方ないので、持ち込めるわけのない化学の問題集を記憶の中から引っ張り出した。

 現代文の問題用紙の余白に、延々と化学の公式や解答プロセスを書き出していく。

 これは手を動かすことで記憶を叩き込む作業だ。

 集中すればするほど、周囲のシャーペンの音も遠ざかり、俺の世界はただ公式と反応式で埋め尽くされていった。

 

「はい、そこまで」

 

 試験終了の合図で鉛筆を置く。

 

「ほら、月見里。悪あがきしないでペンを置け」

「うぅ……終わった」

 

 後ろの方の席にいた月見里は、抵抗むなしく解答用紙を回収されていった。南無。

 

「うわっ、カナタ何それ」

 

 ヨシノリが怪訝そうな顔で俺の机を覗き込んだ。問題用紙いっぱいに書かれた化学式を目にして、目を丸くする。

 

「次のテスト化学だから復習しておこうと思って」

「狂気ね」

「いや、暇だったから」

「普通、暇だったら寝るでしょ」

 

 ヨシノリはドン引きした目で俺を見てきた。

 

「ああ、だからお前の解答用紙濡れてたのか」

 

 試験中に涎垂らして寝るなよ。まったく、可愛いなこいつ。

 それから次の試験までの休み時間。

 俺が悠々と伸びをしている横で、ゴワスは血眼で問題集と睨めっこしていた。

 

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