疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
そのあともリリさんの案内は続いた。
中央図書館、地下博物館、学生ラウンジ。
どこへ行っても彼女の説明は的確で、難しい話も噛み砕いて伝えてくれる。
それでいて決して威圧感がない。まさに理想的な先輩という感じだった。
「さて、午前の見学はここまで。昼食のあとは希望の場所を案内するね」
リリさんがまとめに入ると、ヨシノリがこっそり俺の袖を引っ張る。
「ねぇ、カナタ。斎藤のお姉さん、完璧すぎない?」
「あの人ほど頭も性格も良い人はなかなかいないぞ。厳しさの中に優しさがあるっていうのかな……たぶん、上司にしたい人ランキングを作ったら余裕で一位を取れると思う」
ちなみに、俺の中での二位はケイコ先輩である。
「……なんでそんなに懐いてるのよ」
小声で言いながら、ヨシノリはじとっと俺を睨む。
しまった。いろいろと、前世の記憶を混ぜて喋りすぎてるのかもしれない。
仕方ないので、俺は曖昧に笑ってごまかした。
そんな中、リリさんが振り返って言う。
「じゃあ、次は外に出てみよっか」
リリさんの声に従い、俺たちはエスカレーターを降りてキャンパスの中庭へ向かった。
外に出ると、風が少し強くて、コートの裾がばたついた。
真冬の陽だまりはそれでも暖かく、芝生の緑が朝日に照らされて眩しい。
「ここは〝日向の広場〟って言って、学生の憩いの場になってるよ。お昼どきは混んでて座れないくらいなの」
リリさんがそう言って微笑むと、ヨシノリが目を細める。
「いいなぁ。こういう場所で紅茶飲みながらのんびりしたい」
「やっさー。ここで昼寝したら最高さー」
喜屋武が腕を組みながら言う。
俺はふと、視界の端に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
あれは、手芸部の後藤だ。少し離れた広場のベンチで、クラスメイトと談笑している。
どうやら、別の班と見学時間が被ったようだ。
彼女の班の案内をしているのは、黒のロングコートに身を包んだ短髪の大学生。
整った横顔に淡い笑みを浮かべながら、穏やかに生徒たちへ指示を出していた。
「あっ」
その姿を見た瞬間、リリさんが小さく声を漏らした。
「あれ、麻緒じゃない」
声のトーンがほんの少しだけ柔らかくなる。
俺たちがそちらを振り向くと、相手も気づいたように軽く手を上げて歩み寄ってきた。
「梨利子。こっちの班もここだったんだ」
「うん、ばったりだね。そっちも妹さんと鉢合わせた感じ」
「そうそう。絶対、高校側が狙ったよね……」
麻緒さんと呼ばれた人と話しているときのリリさんは、どこか雰囲気が柔らかく感じられた。
「逆にやりづらいのにねぇ」
リリさんが何気なく返したその言葉に、ほんの少しだけ柔らかい色が混ざった。
穏やかな空気中、笑顔のヨシノリが麻緒さんに駆け寄っていく。
「こんにちは!」
「ああ、ヨシ――由紀ちゃん。偶然だね」
その声を聞いたリリさんが、目を瞬かせる。
「えっ、二人は知り合いなの?」
「はい! えっと……いろいろ教わってて!」
「へぇ、そうなんだ」
リリさんの声に、わずかに複雑なニュアンスが混ざった。
驚き、興味、そして、戸惑い。
かくいう俺も戸惑っている。
後藤の兄ということは、例の装飾周りの装備を作ってくれた人だろう。ヨシノリと繋がりがあってもおかしくはない。
なのに、どうにも心が落ち着かない。
「意外な繋がりがあるものね」
リリさんは、一瞬だけ視線を伏せて、すぐにまたいつもの落ち着いた表情に戻った。
けれど、指先にかかったマフラーの端を無意識にいじっている。
その仕草が、なぜか妙に印象に残った。
ヨシノリはというと、何も気にせず麻緒さんと楽しそうに話している。
後藤も混ざって笑い合い、周囲の空気が柔らかく弾んでいく。
ヨシノリが楽しそうに笑う度に、胸の奥がざらりとする。
「ふふっ」
アミが横で小さく笑った。
「なんだよ」
「なんでもないですよ。ただ、ちゃんとしないと、取られちゃいますよ?」
「取られるって、誰に」
「それはカナタ君が一番わかっているんじゃないですか」
アミはおどけたように肩をすくめ、微笑を残してリリさんのほうへ戻っていった。
風が吹き、リリさんがマフラーを押さえながら、少し遠くを見ていた。
その視線の先には麻緒さんの姿があった。