疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
昼前、キャンパス内のカフェテリアで昼食を取ることになった。
吹き抜けの明るい空間には、コーヒーの香りと焼きたてパンの匂いが漂っている。
「すごいです。オシャレなカフェテリアみたいです」
アミが目を丸くする。
木製のテーブルにランチプレートが並び、学生たちは食事を取ったり、ノートパソコンを広げてレポートを打っている。
俺もここで提出期限ギリギリのレポートやったりしたっけなぁ。
「意識高そうな空間だな」
ゴワスが呟くと、喜屋武がうんうんと頷いた。
「こういうとこで課題したら、はかどりそうさー!」
「なんか大人って感じ」
ヨシノリが羨ましそうに言う。
「二年ちょっとで俺たちもここに通うことになるけどな」
「過半数は内部進学だものね。やっぱり、エスカレーター式は偉大だよ」
ナイトがしみじみと呟く。
その意見には俺も概ね同意だ。
付属高校の生徒で内部進学する者は受験戦争から逃れることができる。
高校二年生の後半から高校三年生の間という地獄の勉強期間を遊び惚けていても許されるのだ。
高校時代という青春真っ盛りの中で、その特権はあまりにも大きかった。
デメリットがあるとすれば、苦労せずに大学に入ることで怠けて留年する奴が多かったことくらいだろう。
「みんなはやっぱりそのまま内部進学予定?」
アジフライ定食をつつきながらリリさんが尋ねてくる。
「ここにいる全員そうですね」
「ふーん、隆盛も?」
「……悪いかよ」
「いいと思う」
ぶっきらぼうなゴワスの返事に、リリさんは苦笑しながらお茶を飲む。
「簡単にいけるなら大学は行き得だからね。やりたいことが見つかるまでの猶予期間って考えれば安定択だし」
やりたいこと、という言葉にゴワスの肩がビクッと跳ねる。
それはゴワスにとってタイムリーな話題だ。
「リリさん。こいつ、この前の期末試験で学年十位だったんですよ」
「えっ、隆盛が?」
だからここは助け船を出すことにした。
「やりたいことがあるから土台作りは大切だって言ったら、こいつ本気で頑張ったんです」
「お、おい、カナタ」
「リリさんは本気でやりたいことがある人間を応援してくれる人だぞ」
俺は小声でゴワスへ告げる。
そうこの人は頑張っている人を笑わないし、否定しない。
俺は知っている。リリさんは碌に仕事もできない癖に、小説家という夢を追い続けた部下をずっとサポートしてくれる人だから。
「だから、大丈夫だ」
俺が補足すると、ゴワスは意を決してリリさんへと告げる。
「姉ちゃん。俺、プロゲーマーになりたいんだ」
「プロゲーマー?」
「ああ、もちろん簡単になれると思ってない。一生なれないかもしれない。だから、大学行って就職もするつもりだ。それと並行して一生挑戦し続けたいんだ」
ゴワスの言葉には確かな覚悟があった。
夢が叶わなかったときに諦めるのではなく、一生かけて挑戦していく。
それは奇しくも俺が死ぬ気の執筆期間にようやく決まった覚悟と同じだった。
「……そっか。ちょっと見ない間に大人になったね」
しばらく面食らっていたリリさんだったが、その言葉の意味を理解して静かに微笑んだ。
「ま、まあな」
ゴワスは箸を止め、少しだけ視線を逸らす。
「あんたがやるって決めたならいいんじゃない? お父さんたちには黙っておく。ややこしくなるからね。あんまりこっちを巻き込まないでよ?」
ゴワスは言葉に詰まり、わずかに口を尖らせる。
「……姉ちゃんって、ほんとそういうとこ変わんねぇな」
「褒め言葉として受け取っとく」
リリさんは柔らかく笑い、湯気の立つお茶をひと口すする。
そのやり取りを見ていて、俺は少し安心した。
「やっぱりカナタ。斎藤のお姉さんのこと信頼しすぎじゃない?」
「ダークホース登場ですねぇ」
「あわわ……わんはどうすれば!」
そんなやりとりの横で女性陣がひそひそと何かを話していた。
「カナタ。そろそろ本当に刺されるから気をつけなよ」
「えぇ、いきなり怖いんだけど……」
笑い声と食器の音が混ざる中、湯気の向こうでゴワスとリリさんが穏やかに言葉を交わしていた。
その光景を眺めながら、俺は箸を置く。
夢を語る人も、それを見守る人も、ちゃんと前を向いている。
そんな当たり前のことが、妙に眩しく見えた。