疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第284話 受け入れろっていうのは、誰かの感性を否定すること

 大学見学が終わり、駅前で全員と別れたあと。

 夕方の空気が冷たくなり始める中、俺はひとり大学へ引き返していた。

 みんなはもう帰りの電車に乗ったはずだ。

 

 そんな中、俺はどうしても気になることがあった。

 静まり返った構内を抜けると、建物の窓から淡い光が漏れていた。

 中では数人の学生が作業をしていて、その中に彼の姿を見つける。

 黒髪を耳の後ろで軽くまとめ、ノートパソコンを睨んでいる横顔。

 

「すみません、少しいいですか。後藤麻緒さん、いえ――MAOさん」

 

 声をかけると、目的の人物である後藤麻緒ことMAOさんは驚いたように顔を上げた。

 

「……田中君、だったよね?」

「はい。少し、お話ししたくて」

 

 彼は一瞬迷ったようだったが、やがて頷いた。

 建物を出て、冷たい風が流れる中庭のベンチへ移動する。

 

「それで、話って?」

「リリさんのことです」

 

 MAOさんの肩がわずかに震えた。

 俺はゆっくりと言葉を選んだ。

 

「女装レイヤーであること、恋人であるリリさんに言ってないんですよね」

「どうして僕が梨利子と恋人だってわかったんだい?」

「まあ、そこは空気感というか。これでも人間観察に自信はあるので」

「ははっ、さすが天才高校生作家様だね」

 

 MAOさんは小さく笑った。

 

「怖いんだ」

 

 彼は吐く息を白くして、空を見上げる。

 

「妹やコスプレ界隈の人たちは僕を受け入れてくれる。それは同じ世界にいるからだ」

 

 MAOさんの表情が苦悶に歪む。

 

「一般的に女装が受け入れられる趣味じゃないことくらいわかってる」

「そんなことはないです。世の中はどんどん多様性の時代になっています」

「でも、そう簡単に人の心は変えられない」

 

 俺の言葉に、MAOさんは悲し気に首を横に振った。

 

「多様性なんて言葉、綺麗に聞こえるけどさ……本当は違う。受け入れろっていうのは、誰かの感性を否定するのと同じなんだ。嫌う自由も、否定する自由も、みんなが持ってる。だから、僕は自分の姿を人に見せるのが怖い。理解されないのが、怖いんだよ」

「……それでも、隠したままでいいんですか」

「いいも悪いもない。僕は傷つかない方を選んだだけだ」

 

 その言葉が妙に重く響いた。

 俺は息を吸い、言葉を絞り出す。

 

「好きな格好をすればいいと思います。誰に否定される筋合いもない」

 

 MAOさんは一瞬、目を細めて俺を見た。

 

「リリさんは、本気で何かに向き合う人をバカにするような人じゃありません。だから、ちゃんと話した方がいいです。今なら、まだ間に合う」

 

 俺の言葉にMAOさんは俯いたまま、しばらく沈黙していた。

 やがて、凍えた指で髪をかき上げ、小さく笑う。

 

「なんか妬けちゃうな。君のほうがよっぽど梨利子をわかっている気がするよ」

「俺もヨシノリが懐いているあなたに嫉妬していたのでおあいこですね」

「えっ、そうだったのか」

 

 MAOさんは虚を突かれたような顔になった後、笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう。こんな僕を心配してくれて」

 

 そう言って、彼は再び建物の中へ戻っていった。

 

「さすがに、すぐには決断できないだろうな」

 

 いきなり関係値の薄い人間から恋人同士の関係に口を出されたところで、すぐに行動できる人はそういないだろう。

 

 だけど、その背中はどこか迷いながらも少しだけ軽く見えた。

 

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