疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第285話 心の中のざらつき

 日が傾き始めた御茶ノ水の街は、夕暮れとともに冷たい風が吹き抜けていた。

 

「よっすー。師匠とは会えた?」

「ヨシノリ。どうして……」

「カナタのことだから師匠を探しに行ったんだろうなぁって思ったから待ってたの」

 

 思考回路筒抜けかよ。ヨシノリに隠し事はできないな。

 

 それからヨシノリと一緒に駅へ向かう途中、吐く息が白く混ざり合う。

 人通りの多い歩道を並んで歩きながらも、俺の頭の中ではずっとひとつの疑問がぐるぐると回っていた。

 

「うーん……」

 

 無意識に唸っていたらしい。隣を歩くヨシノリが、俺の顔を覗き込む。

 

「どうしたの、カナタ。喉に魚でも引っかかったみたいな顔してるよ」

「小骨な。魚そのものは窒息するわ」

 

 ヨシノリが心配そうに俺の顔を覗き込んでバカみたいなことを言ってくる。

 

「……いや、リリさんのことが気になってな」

 

 その一言に、ヨシノリがピタッと足を止める。

 

「な、ななな、何で?」

「そっちこそ何で動揺してるんだよ」

「い、いや! 別に! なんでもないけど!」

 

 明らかに目が泳いでいる。

 俺が嫉妬してるって言ったときより動揺しているまである。

 本当に、こういうときのヨシノリはよくわからない。

 

「……あたしも、その、嫉妬……してるから」

 

 俯きながら言うその声は小さくて、冬の風に消え入りそうだった。

 思わず返す言葉を失う。

 ほんの数秒の沈黙。

 そのあと、ヨシノリは誤魔化すように前を向いた。

 

「だから、ほら、お互い様ってやつ?」

「あ、ああ、そうだな」

 

 咳払いをして強制的に変な空気を振り払う。

 

「こほん……気になってるって言っても恋愛的な意味じゃない」

「そ、そうなの?」

 

 何故か安堵しているヨシノリへ俺は息を吐きながら言葉を探す。

 

「リリさんと、麻緒さん。二人の空気、なんか変だっただろ?」

「あー……やっぱりカナタもそう思った?」

「あの空気感はさすがに気づくだろ」

 

 一瞬の視線の交わし方。

 互いをよく知っているような、けれど言葉に出さない距離感。

 リリさんのあの落ち着いた笑みが、どこかぎこちなく見えたのも気になっていた。

 

「まあ、本当は俺が首突っ込む話じゃないんだけどさ」

「……ふーん」

 

 ヨシノリは少し考えるように顎に手を当てた。

 そして不意に、いたずらっぽい笑みを浮かべる。

 

「ねぇ、カナタ。気になるなら、あたしが聞いてみよっか?」

「え、誰に何を?」

「シロちゃんに。あの子、妹でしょ? それに、あたしは同じ界隈だし、話はしやすいじゃん」

「協力してくれるのか?」

「うん。だってあたしも、気になってるから」

 

 その言い方は、どこか優しくて、それでいてほんの少しだけ照れを含んでいた。

 

「ま、あたしに任せなって。シロちゃんからそれとなく聞いとくから」

「助かるよ」

「いいの。あたしはカナタがモヤモヤした顔してると、なんか気になるってだけだから」

 

 そう言って笑う彼女の横顔を、夕暮れの光が照らす。

 風に揺れるポニーテールがアイシャドウと同じオレンジ色に染まって、どこか切なげに見えた。

 

 ヨシノリに背を向けた後も、心の中のざらつきだけは、溶け切らなかった道路の雪のように残っていた。

 

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