疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第287話 これからもお世話になります

 クリスマス当日。

 秋葉原の電気街は、いつも以上の喧騒に包まれていた。

 

「やっぱり混んでるね」

 

 ヨシノリがオレンジ色のマフラーの裾を押さえながら俺の隣を歩く。

 今日は淡いグレーのロングコートに、水色の耳当てをしている。

 毛先をゆるく巻いたポニーテールがふわりと揺れて、歩くたびに控えめな香水の甘い匂いが漂った。

 黒のタイツとショートブーツの組み合わせが大人っぽくて、クリスマスにお出かけする女子という出で立ちだ。

 

「さすがクリスマスだな」

「なんか記念日っぽいね」

 

 その言葉に、思わず笑みがこぼれる。

 俺にとっても今日は特別な日だった。

 

 デビュー作の発売日。作家人生でも一度しかない貴重な日だ。

 

 目的の書店に着くと、ガラス越しに見慣れたロゴが目に入る。

 中は年末セールの客で賑わっていたが、ライトノベル新刊コーナーを見つけた瞬間、心臓が跳ねた。

 

「……あった」

 

 思わず声が漏れた。

 

 〝疎遠になってたポニーテールが良く似合う幼馴染との青春を書き直す〟

 

 黒地の帯に金文字のタイトルが並んでいる。

 タイトルは由弦さんと相談した上で変更済みだ。宣伝がしっかりしている以上、無理に媚びすぎたタイトルにする必要もない。

 

 いつも見慣れていた作業中の原稿が綺麗にラッピングされていて、今は堂々と書店の光の中にある。それも特設コーナーでだ。

 隣には出版社から依頼された俺のサインまで置いてある。

 

「すっごい! ホントに売ってる!」

 

 ヨシノリが感嘆の息をつき、スマホを構える。

 

「作者と作品、奇跡のツーショットだよ」

「いや、奇跡って言うな」

 

 そう苦笑しながらも、心臓は落ち着かない。

 俺は思い切ってカウンターへ向かった。

 

「あの、すみません。この本の原作者なんですけど、写真撮ってもいいですか?」

 

 店員の青年がきょとんとした顔をしたあと、目を見開いた。

 

「えっ! あっ、い、いつもお世話になっておりますます! サインの提供もありがとうごじゃますた!」

 

 盛大に噛んでいた。

 しかも深く頭を下げてくる。

 思わず俺も頭を下げてしまう。

 

 むしろ、お世話になってるのはこっちである。

 

「あっ、えっと、もちろん、撮影大丈夫です! 新刊、すごく評判いいですよ!」

 

 そう言ってくれた店員の笑顔が、なんだか他人とは思えなかった。

 

「カナタ、笑って笑って!」

 

 ヨシノリが隣でスマホを構える。

 彼女のコートの袖からのぞく指先が小刻みに震えていて、

 それが冬の寒さなのか、嬉しさなのか、見分けがつかなかった。

 

「作者が自分の作品の前で笑うとこ、貴重なんだから!」

「そんなもん撮って誰が得するんだ」

「あたしだけど?」

 

 喧騒の中でも、シャッター音がやけにクリアに聞こえる。

 たぶん今日いちばん、胸が熱くなった瞬間だった。

 撮影を終えたあと、俺は特設コーナーをもう一度見た。

 

 その近くに並ぶ他の新刊たち。いつかこの棚の中で長く愛される一冊になれるように。

 そう思いながら、俺は心の中でそっと呟いた。

 

 これからもお世話になります。

 

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