疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
書店を出ると、昼の光がビルのガラスに反射して眩しかった。
冬の空気は冷たいのに、街全体が人いきれで少しだけ暖かい。
クリスマスの秋葉原は、まるでお祭りみたいだった。
歩道には紙袋を抱えたオタクたち、店の前ではメイド服姿の呼び込み。
それら全部が混ざり合って、どこか現実感の薄い喧騒を作り出していた。
「にしても、ホントに売ってたね」
ヨシノリは笑いながら言う。
「ああ。自分の名前が棚に並んでるのを見るのは、やっぱり不思議だな」
「えへへ、なんか親みたいな気分。カナタの子が巣立ってくって感じ」
「俺が作者でお前が親ってどういう関係だよ」
「担当編集、私のパパだけど?」
「その場合は姉弟になるだろうが」
俺は苦笑して肩をすくめた。
「でも、これでやっとスタートラインだな」
「スタートライン?」
「デビューはゴールじゃなくて、ようやく名前が出る権利を得たくらいのものだから」
横断歩道を渡りながら、俺は少し遠くのビル群を見上げた。
「まずは重版出来になるかどうかだ。宣伝効果もあって通販は在庫切れ。PVに起用されたのが、人気声優かつ主人公とヒロインで夫婦関係だったのが話題を呼んだ。続刊は固いけど、できればコミカライズとアニメ化はほしいところだ。ポニテ馴染だけじゃない。年明けにはカミラの聖剣の連載も始まる。冬コミはしっかり宣伝もやっていきたいが、もう一押し欲しいとこだ。やっぱり、もっと他のクリエイターとも繋がりを作っておくことも大切だし、もっと田中カナタの名前を売り出して――」
そこまで一気に捲し立てたところで、隣のヨシノリが黙ってニコニコと笑っていることに気がついた。
「悪い。今、自分の情報整理のために喋ってた」
「大丈夫。半分聞いてないから」
ヨシノリがくすっと笑う。
その笑い方が妙に柔らかくて、俺も思わず笑い返した。
「あたし、そういうカナタのとこ好きだよ」
「え?」
「頭の中でいろんな計画立てて、理屈っぽく話してるのに、表情だけめちゃくちゃ楽しそうなとこ」
「……そんな顔してたか?」
「してたよ。書店で自分の本見つけたときよりずっと」
その言葉が、思いのほか胸に響いた。
確かに、特設コーナーの前では緊張してた。
今はただ、前を向いて話している自分に自信があった。
信号待ちの間、ヨシノリが袖を軽くつかむ。
そのまま手を離さずに、信号が青に変わる。
昼の太陽がガラスに反射し、街の光が少しだけ眩しかった。
「カナタっていつも次のことばっか考えてるよね」
「そうかもな。前を見てないと、すぐ不安になるんだ」
「カナタらしいね」
ヨシノリは笑いながら、手袋の指先で俺の腕を小突いた。
「そんな風に焦ってるカナタは、ちゃんと今を生きてるんだよ」
「……ああ、そうだな」
昼の喧騒の中、俺たちは街を歩く。
「ねぇ、このあとどこ行く?」
「どこでもいいけど、寒いから屋内希望だ。適当にカフェにでも――」
俺がカフェに入ることを提案した瞬間、派手に腹の虫が鳴った。誰から鳴ったかはいう間でもないだろう。
「牛タン屋にでもいくか」
「さ、賛成……」
恥ずかしさからか顔をより一層赤くしたヨシノリが俯きながら答える。
その姿がいつも以上に可愛く見えたのはクリスマス効果なのだろうか。
ページの外の現実が、書き綴った青春にようやく追いついた気がした。