疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第289話 牛タン屋〝ねぎひ〟での邂逅

 秋葉原にある牛タン屋〝ねぎひ〟は、雑居ビルの三階にあった。

 エレベーターを出た瞬間、鉄板で焼かれる肉の香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

 昼時で店内は賑わっていたが、ぎりぎり二人がけの窓際席に通されることができた。

 ガラス越しに見える電気街は、昼の光を反射してきらきらと輝いている。

 

「いい匂い……! やばい、もう幸せ」

 

 ヨシノリは席に着くなり、嬉しそうに深呼吸した。

 俺もメニューを開きながら頷く。

 

「やっぱ、ねぎひは正義だな」

「こういう〝自分へのご褒美ランチ〟って最高だよね」

 

 そんな他愛ない会話をしていた、そのときだった。

 

「あれ、奏太と由紀か?」

 

 ふと後ろから聞き慣れた声がした。

 振り返ると、そこにいたのはゴワスがいた。

 

 その隣に立つ小柄な女の子が、こちらを少しおどおどした様子で見上げていた。

 彼女は150センチに満たないくらいの小柄な体格で、明るい栗色の髪を肩のあたりで切りそろえている。

 三白眼ぎみの瞳は意外と大きく、表情がころころと変わるせいか、不思議と愛嬌がある。

 鼻のあたりに薄く散ったそばかすが陽の光を受けてきらりと光り、癖の塊みたいなキャラという印象を受ける。

 

「ゴワス。お前、なんでここに?」

「そっちこそ。まさか秋葉で会うとはな」

 

 思わず立ち上がり、二人の元へと駆け寄る。

 

「悪い、クリスマスデート中に声かけちまって」

「いや、それはお互い様だろ」

 

 そう言ってゴワスは、隣の女の子を照れくさそうに見遣る。

 

「あ、あの……」

 

 女の子は小さく胸の前で手を揃え、ぺこりとお辞儀をした。

 

「私、応治女学院の和気藍梨(わけあいり)っていいます。高校一年生です」

 

 声は控えめで柔らかいが、芯の強さが感じられるトーンだった。

 

「俺は田中奏太だ」

「あたし、佐藤由紀!」

「田中さん、佐藤さん、よろしくね。隆盛君には文化祭でナンパされてたときに、助けてもらって……そのお礼に、クリスマスに出かけようって誘ったの」

「へぇ、そうだったのか」

 

 俺が感心して頷くと、横でヨシノリがにやにやしながら肘でつついてきた。

 

「斎藤。秋葉原でクリスマスデートとか、やるじゃん」

「ち、違ぇよ。別にそういうんじゃ……」

 

 ゴワスは困ったように目を逸らした。

 なるほど。これはなかなか美味しいネタだ。

 俺は思わずポケットからメモ帳を取り出し、ペンを走らせ始めた。

 

「文化祭でナンパされたタイミングは? 相手の人数は? 救出の決め台詞とかあった?」

「えっ、えっと……? あ、あの……」

 

 藍梨は質問の嵐に完全に戸惑っている。

 

「その後の連絡頻度はどのくらい? LINE交換の流れとか、感情の変化を――」

「ストーップ!」

 

 ヨシノリが慌てて手を挙げ、俺のペンを止めた。

 

「ごめんね藍梨ちゃん! こいつ、作家デビューしたばっかの執筆マシーンでちょっとおかしいの!」

「おい、急に褒めるな」

「褒めてないっての……最近は人間らしくなってきてたのに、すぐこれだ」

 

 ヨシノリは呆れたように深いため息をついた。

 

「……作家さん?」

 

 その言葉に、藍梨が小首を傾げた。

 そして、隣のゴワスを見上げる。

 

「ねぇ、隆盛君。もしかしてこの人が、さっき言ってたプロの作家の友達?」

「ああ、そのもしかしてだ」

「すごい……!」

 

 藍梨の瞳がぱっと輝いた。さっきまで緊張していたのが嘘みたいに、目を輝かせている。

 

「あの……よかったら、サインしてもらってもいいかな?」

 

 その言葉に俺は一瞬固まったが、すぐに笑って頷いた。

 

「もちろんだ」

「えっ、いいんですか!?」

 

 藍梨は嬉しそうに両手を合わせて、ぱぁっと笑顔を見せる。

 さっきまでの小動物みたいな遠慮がちさが嘘のようだった。

 俺はメモ帳の最後のページを破り、ペン先を走らせた。

 サイン本キャンペーンと店頭に飾る色紙のために練習しておいてよかった。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます!」

 

 藍梨は両手で大事そうにそれを受け取り、胸の前でそっと抱きしめた。

 その光景をヨシノリは呆けた顔で見つめていた。

 

「さ、最初のサイン………………み゛!」

 

 それから唐突に奇声を発して席に座り込んでしまった。

 一体どうしたというのだろうか。

 

 その姿を見たゴワスがやけに申し訳なさそうにしていたのが印象に残った。

 

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