疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第29話 どうせ糧にするなら、喜ばれる結末を

 それからもアミの陰口は本人の耳に入らないように続けられていた。

 言っている女子三人組も特定はできた。

 

 女子三人組のリーダー的存在である、派手な化粧が特徴的な金髪のギャル・阿比留乃子(あびるのこ)

 

 キッショが口癖の語彙力カスの取り巻きその一・御手洗純子(みたらいじゅんこ)

 

 阿比留の顔色を窺ってばかりの風見鶏で軽音部所属の取り巻きその二・喜屋武鳴久(きゃんめいく)

 

 三人とも性格が悪いのはわかっているが、面白かったのは喜屋武についてだ。

 喜屋武については、三人といるとき以外は基本的にアミのことを褒めていたのだ。

 陰口を叩いているときも表情が引き攣っていたり、同調するだけで積極的に陰口の〝新規エピソード〟を提供することはしない。

 

 要するに、彼女は阿比留という女王のイエスマンでしかないのだ。本当はアミの悪口なんて言いたくないのだろう。

 集団の同調意識に囚われてどうすることもできない。喜屋武の行動と言動、表情からそんな風に感じられた。

 

 そんな状況を俺はただ眺めるだけだった。無意味に騒ぎ立てても、事態が好転するとは限らない。下手に口を挟めばアミの立場を悪くするだけかもしれない。

 それに、アミ自身は何も気にしていない様子だった。そもそも耳に入っていないみたいだしな。

 

 休み時間、俺はふとアミの様子を観察してみた。彼女は変わらず明るく、クラスの中心で笑顔を振りまいていた。その姿を見る限り、陰口の影響を感じさせることはない。

 アミは本当に何も気づいていないのか、それとも気づいていても気にしないふりをしているのか。どちらなのかは判断が付かない。

 ナイトもまた、彼女を気にしているのか、時折視線を送っているのがわかった。

 

「カナタ。トイレ行こうか」

「おう」

 

 そんなナイトに連れションという名目で俺は廊下に連れ出された。

 

「何か相談でもあるのか?」

「さすがの観察力だね」

 

 さりげなく褒め言葉を挟みつつ、ナイトは真剣な表情で告げる。

 

「アミちゃんのことだ」

「ああ、一部の女子に嫉妬されてるから心配的な?」

 

 さすがにナイトほど周囲を見ていれば阿比留たちの陰口にも気がつくだろう。

 

「ああ、だから俺を連れ出したのか」

「ははっ、カナタは思ったことをそのまま言っちゃうからね。まあ、僕は好きだけどね。カナタの正直なところ」

 

 俺は思ったことをそのまま場の空気を読まずに言うタイプだ。ヨシノリのフォローもあって、俺は〝空気の読めない陰キャ〟から〝幼馴染を振り回す天然君〟という立ち位置を得ることができたのだ。

 やっぱり、キャラの関係性で売ると単体だと微妙なキャラも引き立つな。時代はセット売りである。

 

「実際、俺みたいにアミも由紀がいるから大丈夫じゃないのか」

 

 由紀は女子にしては高い身長と目つきで圧を感じるが、俺に振り回されている苦労人というイメージが圧を緩和したことで〝頼れる姉貴分〟という立ち位置になっているらしい。

 あと、恋バナに飢えている女子がピラニアのように群がっていることもプラスに働いているようだ。

 

 まあ、幼馴染の距離感での男女のやりとりは恋バナ並の栄養があるのだろう。知らんけど。

 

「正直、由紀ちゃんには助けられているよ」

 

 ため息をつくと、ナイトは頷く。

 

「……でも、女子の嫉妬はどうにかなるものじゃない」

 

 そう言って、どこかやるせない表情を浮かべた。ナイトはたまにこういう表情をする。

 中学でも女子の嫉妬で苦労させられたのだろう。そんな実感がナイトの言葉には籠もっていた。

 

「だとしても、俺たちが下手に庇うと状況は悪化するだろうな」

 

 ナイトが庇えばイケメンに媚びて守ってもらっていると言われ、俺が庇えば由紀ちゃんに悪いと思わないのと言われる。

 シンプルにクソである。

 

「本当に悩ましいところだよ」

 

 ナイトの表情はどこか沈んでいた。彼自身、過去に似たような経験をしたことがあるのだろう。イケメンというだけでモテて周囲に悪い影響を与えてしまった。

 そういう苦労を、表に出さないだけで抱えてきたのかもしれない。

 

「まあ、アミはぽわぽわしているようで案外根性あるし、あの手の悪口には屈しないだろう」

「そうだね。でも、そういう子ほど、一人で抱え込んじゃうこともあるからさ」

 

 ナイトの指摘に、俺は無意識のうちにヨシノリのことを思い浮かべた。

 アミとはタイプが違うが、ヨシノリもまた、周りに頼らずに自分で何とかしようとするところがある。そういうやつほど、気がついたときには無理をしていることが多い。

 

「だったら、俺たちは何かあったときにすぐに気づいてやれるようにしておけばいい」

「それが一番スマートなやり方なんだろうね」

 

 そう話していると、ちょうど教室の方からアミがこちらに向かってくるのが見えた。

 

「カナタ君、ナイト君、トイレに行ったんじゃなかったんですか?」

「ああ、ちょっと話し込んでたら足が止まってただけだ」

「何だか難しい顔をしていましたけど、何かあったんですか?」

 

 アミは小首をかしげながら、俺たちを交互に見た。普段と変わらぬ柔らかい笑みを浮かべているが、もしかすると、彼女自身も何かを察しているのかもしれない。

 

「いや、ちょっとね。アミちゃんは大丈夫? 最近忙しそうだけど」

「あ、はい! バイトも学校も楽しいので、大丈夫ですよ!」

 

 そう言いながらも、アミは少しだけ視線を伏せた。

 その一瞬の仕草を、ナイトも俺も見逃さなかった。

 

「……そうかい。何かあれば、いつでも言ってくれ」

 

 ナイトがそう言うと、アミは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑を浮かべた。

 

「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」

 

 ナイトと俺は目を合わせ、軽く肩をすくめる。

 

「そう言うなら信じるけどさ」

「俺たちはいつでも味方だってこと、覚えておけよ」

 

 ナイトが優しく言うと、アミはほんの少しだけ目を見開いた後、照れくさそうに笑った。

 

「ふふっ、お二人とも優しいですね。でも、本当に大丈夫ですから!」

 

 そう言って、アミは手を振りながら教室へ戻っていった。

 俺とナイトはしばらくその背中を見送っていたが、やがてナイトが小さく息をついた。

 

「やっぱり、少しは気にしてるみたいだね」

「まあ、なるようになるだろ」

 

 どっちに転んだとしても小説の糧になる。

 

 ただ、どうせ糧にするなら、メインターゲットの読者層にも喜ばれる結末のほうがいいよな?

 

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