疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
今回も完売まで時間がかからなかった。
百円のコピー本〝ギター少女アフロディーテ〟も、あっという間に机の上から消えていった。
文化祭後にラジオで部誌の話をしたとき、「読みたい」というリスナーの声が多く届いたので、追加で刷ってもらっていたのだ。
アミのチャンネルでも宣伝してもらったこともあり、今回は夏コミ以上の反響だった。
嬉しそうに本を抱えた参加者が戻っていくのが見える。
そのひとりひとりに、俺たちの作った物語がこれから入っていくのだ。
「すごい……あっという間に完売」
トト先が呟くように言う。無表情に見えるが、その顔はどこか誇らしげに見えた。
「由紀の写真集の方も、完売だな」
ゴワスが笑いながら汗を拭う。
冬の屋内なのに、列整理などで動いて声を出しまくっていたからか薄着なのに暑そうだ。
「冬コミで完売か……いつか、自分のサークルだしてやりたいな」
ヨシノリが胸に手を当てて、肩で息をしている。
アイシャの衣装のまま、頬には少しだけ赤みが残っていた。
「写真集の感想、もうハッシュタグついて上がってるよ。再現度やばい、神、だってさ」
「うわ、マジ!? ちょ、見せて見せて!」
ヨシノリがスマホを覗き込み、画面を見た瞬間に目を丸くした。
「わっ、公認レイヤーのめろまるさんが引用リポストしてる!?」
「本当だ。『衣装の完成度も表情も素晴らしい』だって」
ケイコ先輩が読み上げる。
ヨシノリの肩がびくりと跳ねた。
「うわぁ、すご……」
ぽつりとつぶやいて、顔を覆う。
「これでまた顔が売れたな」
「そうだといいなぁ」
俺が笑うと、ヨシノリは照れたように視線を逸らした。
午後はトト先たちのサイン会が控えていたので、ブースはケイコ先輩たちに任せる。
俺とヨシノリは、昼休憩に出ることになった。
冬の冷気が吹き抜ける外へ出ると人、人、人。
東館の外周には屋台が並び、甘いクレープの匂いと、鉄板で焼かれる肉の香ばしさが入り混じっている。
冬のコミケは冷えるが、外の熱気がそれを撥ね返してくれる。
「ねぇカナタ。見て見て! あそこ、またケバブ出てる!」
ヨシノリが指差した先には、あの夏と同じケバブ屋。
煙とスパイスの匂いが風に乗って鼻をくすぐる。
「やっぱりケバブの匂いって腹減るよな」
「味なんてわからない癖に」
金髪ウィッグを抑えながら笑うヨシノリ。
その姿は、寒空の下でも妙に眩しかった。
通り過ぎる人たちが、ちらちらと視線を送っていく。
けれどヨシノリは気にする様子もなく、むしろ楽しげに背筋を伸ばして歩いていた。
「カナタ、辛さどうする?」
「辛さマシマシで」
「相変わらず、バカみたいな辛さの食べるね」
それについては、味覚がサ終しているから少しでも刺激が欲しいだけだ。
ヨシノリが笑いながら、ケバブの包みを受け取る。
湯気が白い空気に溶けていく。
二人で日陰のベンチに腰を下ろし、ケバブへかぶりつく。
焼きたての肉とソースの香りが一気に広がる。
「いっただっきまーす!」
俺に続いてヨシノリが勢いよくかぶりついた。
金髪の隙間から覗く頬がほんのり赤く染まる。
「ん~~~! おいしいっ!」
「そりゃそうだろ。外が冷えてる分、余計にうまく感じる」
冷たい風と温かいケバブ。
その対比が、夏とはまったく違う幸福感を連れてくる。
ヨシノリが一口食べるたびに、白い息がふわりと漂う。
「ねぇ、覚えてる? 夏コミのときもケバブ食べたよね」
「覚えてるよ」
「また来年も食べようね!」
ヨシノリが笑う。
寒空の下、その笑顔は火照った頬よりもずっと温かかった。