疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第293話 恩人の問題解決

 昼食を終えると、ヨシノリはコスプレエリアに向かっていった。

 知り合いのレイヤー仲間に挨拶して回るのだという。

 アイシャのまま堂々と歩いていくその背中は、もはや演じているのではなく、生きているように見えた。

 それを見送りながら、俺は人波の外れにあるベンチで待ち合わせの時間を確認する。

 

「……そろそろ来る頃か」

 

 スマホの画面を見つめていると、風に混じって香水の匂いが流れた。

 

「待たせたわね、田中君」

 

 振り向けば、マフラーを外しながらリリさんが立っていた。

 冬の光を受けた白髪混じりの金髪がきらめく。

 落ち着いたグレーのロングコートに、黒のヒール。

 あいかわらず、大人っぽい雰囲気を纏った人である。いや、大人ではあるんだけども。

 

「来てくれてありがとうございます」

「夏はただの荷物運びだったから、ちょっと見てみたくて……想像以上ね」

 

 リリさんは会場の方向を見やり、微笑む。

 

「外まで熱気が伝わってくるもの。青春って、やっぱりいいわね」

「たしかに、体感温度三度くらい上がります」

「ふふっ、そんな気がするわ」

 

 会話を交わしながら、俺たちはコスプレ広場へと歩く。

 広場ではすでに多くのレイヤーたちが撮影会をしており、カメラのシャッター音が絶え間なく響いていた。

 キャラクターを演じる人。作品の世界を再現する人。

 誰もが、自分の〝好き〟に正直で、まっすぐだった。

 

「いい光景ね」

 リリさんが小さく呟いた。

 

「ええ。ここにいる人たち全員が本気なんですよ」

「本気?」

「はい。俺、リリさんは本気でやりたいことに向き合っている人をバカにしないって、信じてます」

 

 そう言うと、彼女は少し驚いたように目を見開き、それからゆっくりと笑った。

 

「……やっぱり田中君って変ね。私、そんなに尊敬されるようなことした覚えないんだけど」

 

 吐く息が白く溶ける。

 冬空の下、リリさんの瞳はまるで舞台のライトのように強く輝いていた。

 

 そのとき、広場の向こうから歓声が上がった。

 数人のカメラマンが一斉にレンズを向けている。

 視線の先には、一人のコスプレイヤーが立っていた。

 銀髪に赤い瞳。黒と白を基調にした衣装は、どこか中性的で、立ち姿だけで人を惹きつける存在感がある。

 周囲のレイヤーとは明らかに一線を画していた。

 

「へぇ、あのコスプレイヤーさん人気――ん?」

 

 リリさんが囁くように言った。

 

「もしかして、麻緒?」

 

 その名を口にした瞬間、リリさんの瞳がわずかに揺れた。

 その声には震えが混じっていた。

 SNSでも人気の女装レイヤーMAOの正体に気がついたようだ。

 

「リリさん。ちゃんと話した方がいいですよ」

「田中君……」

 

 そう告げると、俺はそっとその場を離れた。

 冬の風が頬を撫でる。

 

 背後で、リリさんがMAOさんの方へ歩み寄る足音が響いていた。

 

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