疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
リビングにはこたつのぬくもりと、出汁の香りが満ちていた。
テレビからは年末特番の笑い声。外の風が窓を叩くたび、家の中の温度がいっそう恋しくなる。
「いやぁ~、こたつって危険だよねぇ。入ったら最後、二度と立ち上がれないもん」
年末だというのにヨシノリは俺の家のコタツでぬくぬくゴロゴロしていた。
「ちょっと、由紀。少しは遠慮しなさい」
そんなヨシノリを注意したのは母親である紀香さんだった。
「まあ、いいじゃない紀香」
それを見て母さんが緑茶を手に、にこにこと頬を緩めている。
「和奏。あんまりうちの子を甘やかさないでよ」
「うちのバカが由紀ちゃんに甘やかされてるから、バランス取ってるのよ」
「そーだ、そーだ!」
「由紀、調子に乗らないの!」
ヨシノリは半分だけ顔を出しながら、みかんを頬張っている。
キッチンでは、妹の愛夏が年越しそばの具を並べている。
母さんは手伝おうとしたが、戦力外通告とばかりに早々に追い出されていた。
「お兄ちゃん、天ぷら何にする? えび? それともかき揚げ?」
「なしでいいぞ。大事なのは蕎麦だからな」
「お兄ちゃん。年越し蕎麦なら何でもいいもんね」
そう言って、愛夏が苦笑する。
こういうのは風習とか験担ぎが大事なのであって、蕎麦の種類や味そのものは重要じゃないからな。
「それにしても、奏太……本が重版って、すごい話じゃないか」
父さんがタブレットから顔を上げて言う。
「まあな」
どうやら気になって情報をチェックしてくれていたようだ。
「一冊出すだけでも大変なのに、重版なんてすごいじゃない奏太君」
「ありがとうございます」
紀香さんが、まるで自分の子のように誇らしげに言った。
「由紀も奏太君を見習いなさい? 成績また落ちたんでしょ」
「ちょ、ちょっとお母さん!」
ヨシノリが毛布の中で慌てて顔を出す。
頬がほんのり赤いのは、暖房のせいだけじゃなさそうだった。
「まったく、奏太君に勉強教えてもらったのに……」
「ほら、紀香。年末くらいお説教はやめてあげましょ」
母さんが優しく微笑むと、ヨシノリは安堵のため息をつく。
こうして見ると、母さんと紀香さんは本当に仲が良い。
そう考えると、一周目でも俺の情報は母さん経由でヨシノリに流れていたのかもしれない。
そんなことを考えていると、スマホが震えた。
「ん、由弦さん?」
画面に表示された名前を見て、思わず姿勢を正す。
「はい、田中です」
『カナタ君。大晦日にごめんね』
通話の向こうから聞こえてきた声は、いつもの落ち着いたトーンだったが、どこか疲れていた。
編集部のざわめきが微かに混じる。年末だというのに、まだ出社しているらしい。
『ポニテ馴染の件なんだけど、売れ行きがかなり良くて、二巻の作業に取りかかってほしくてさ』
「本当ですか! すぐにでもやりますよ!」
『えっと……それだけじゃなくて、会社としてはできれば半年も開けずに、次巻を四ヶ月後に出したいと。年明けすぐにでも初稿がほしいみたいなんだけど……』
プロットじゃなくて、初稿とはまた無茶なスケジュールの打診である。三箇日の間に十万文字をかけと?
突然の話だったが、俺の口は自然に動いていた。
「大丈夫です。もう構成は頭の中にありますから」
『さすが……! 本当に助かるよ!』
由弦さんの声に、ほんの少し安堵が混じる。
通話が終わると、俺はふぅと息を吐いた。
リビングに戻ると、全員の視線がこちらに向いていた。
「仕事の電話?」
「由弦さんから。ポニテ馴染の続刊、正式決定したって」
「わぁ、すごい!」
愛夏が手を叩いて喜ぶ。
「おめでと、カナタ!」
ヨシノリがコタツから身体を出して笑顔を浮かべる。
一方で、紀香さんは呆れたようにため息をついた。
「まったく……あの人、年末年始くらい家族に連絡してもいいのに。妻にも娘にも連絡しないで、真っ先に担当作家に電話ってどういうこと?」
「由弦さん、まだ会社にいるらしいです」
「でしょうね。あの人、根っからの仕事人間なんだから」
「それはうちの息子もでしょ」
母さんが笑いながら俺の肩を軽く叩く。
「ホント、二人ともワーカホリック」
「由紀もね。あんたも感化されてイベント前に徹夜作業してたんだから」
「それはそれで楽しかったもん!」
ヨシノリが頬を膨らませる。
こたつの中で笑い声が広がる。
テレビでは年末特番のカウントダウンが始まり、温かい湯気と笑い声がゆっくりと年の瀬を包み込んでいた。