疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
ポニテ馴染み二巻の初稿の提出は一月四日が締め切りとなった。
普通なら無茶も良いところだが、一旦既にできていたプロットを由弦さんに速攻で提出してオッケーはもらった。
冷静に考えれば全然余裕ではないが、俺の口元は自然と吊り上がっていた。
エナドリと流動食は机の下に常備済み。スマホは通知オフ、部屋のカーテンも締め切っている。
これから俺は、正月という全人類がダラける時間を、執筆という地獄に捧げるのだ。
「久しぶりに骨のある原稿作業だな……」
はっきり言って死ぬ気の執筆期間よりやばい状況だというのに、俺の口元は自然と吊り上がっていた。
正直、書きたくない。眠りたい。何もしたくない。
でも、原稿が完成したときの、あの手が震えるような達成感を思い出すと、胸の奥から熱が込み上げてくる。
高揚感が、怠惰な気持ちを塗りつぶす。
「ッシャ、やるか!」
両頬を叩き、エナドリを一気に呷る。
脳がビリビリと冴えわたっていく。
原稿地獄、開幕だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
せっかく三箇日は一緒に初詣に行こうと思ったのに、カナタはパパから無茶ぶりのせいで缶詰状態になってしまった。
「あの執筆マシーンと編集マシーンめ……」
人混みの中、あたしはマフラーをぎゅっと握りしめながら悪態をつく。
目の前には、神田明神の鳥居。人、人、人。
お正月らしい賑わいの中で、ため息だけが白く溶けていく。
「由紀ちゃん。どうしたんですか?」
隣で水色の晴れ着を着たあーちゃんが心配そうに首をかしげてきた。
「カナタがさ、新年早々原稿漬けなの。せっかく誘おうと思ってたのに……」
「ふふっ、カナタ君らしいですね」
あたしの愚痴にあーちゃんは、おっとりと笑って袖で口元を隠す。その笑い方がなんだか優しくて、文句を言う気も失せてしまった。
「二人ともおまたせー! 人多すぎてやばいさー!」
あーちゃんと話していると、人混みの奥から、派手な紅梅柄の振袖姿の鳴久が駆け寄ってきた。
「鳴久。あけおめ」
「キャンちゃん。あけましておめでとうございます」
「ヨッシー、アフロン。あけおめさー!」
三人で笑いながら参道の列に並ぶ。
屋台の甘酒の湯気、たい焼きの甘い匂い、どこか懐かしい鐘の音。
やっぱり空気が違う。人の声も、空の青さも、全部少しだけ清らかに見える。
「人、多っ……前に進まないね」
「正月恒例行事さー。こういうのも風物詩よ」
鳴久が笑いながら肩をすくめる。
「まあ、それもそうね」
あたしも思わず笑ってしまった。
きっと、カナタがいたら「これもまた小説の糧になる」なんて言うんだろうな。
ようやく拝殿の前にたどり着いたとき、あーちゃんが賽銭を投げて静かに手を合わせた。
その姿を見て、あたしも財布から小銭を取り出す。
カナタの原稿がちゃんと間に合いますように……!
パンッと柏手を打つ音が、冬空に響いた。
気づけば、あたしの願いごとは自然と彼のことになっていた。
「やっぱり、ヨッシーはカナタンのお願いしてるさー」
鳴久がニヤニヤしながら言ってくる。
「うるさいな。いいでしょ別に」
頬を膨らませてそっぽを向く。
そこでふと思い出して、スマホを取り出した。
「そういえば、カナタに頼まれてたんだ。資料用に神田明神の写真撮っとけって」
「なるほど、取材目的さー。さすが作家ね」
「ふふっ、由紀ちゃんも立派なアシスタントさんですね」
「アシスタントはなんか嫌!」
あたしはスマホを構える。
シャッターを切るたびに、光が反射して画面いっぱいに冬の青空が映り込む。
その景色を見ながら、なんだか胸の奥がじんわりと温かくなった。
カナタ、きっとこの写真もどこかで使うんだろうな。
そう思ったら、自然と笑顔になっていた。