疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
許可をもらって撮影のためにやってきた体育館は、放課後の静けさに満ちていた。
運よく今日はバスケ部の練習が休みなのだ。
冬の冷気が板張りの床からじんわりと上がってくる。
照明だけが白く空間を照らし、ボールの跳ねる音が乾いた反響を返す。
「よし、まずはコートの中に立ってみてくれ」
「「はいよー」」
俺が指示すると、ヨシノリとゴワスは声を揃えた。
まるで部活の延長のようだったが、今日のふたりの役割はMVの顔だ。
一応、コミケや普段の放課後ラジオ配信のおかげで、二人の知名度も内輪の中では上がってきた。
特にヨシノリはコスプレという界隈で活動を始めたため、顔出しにも抵抗がないし、ファンの間で美少女だということも知られている。
MVの顔としては、申し分ない人材だ。
「高身長組は絵になるね」
「二人ともカッコイイさー!」
ナイトと喜屋武がコート内で動く二人を見て感想を零す。
俺も体育館の中央あたりに立つふたりの後ろ姿を眺める。
学校ではバチバチの運動部なのに、本当はサブカルがやりたい二人。
そういう共通点で、二人を俺は選んだ。
もちろん、ビジュアルがいいのは大前提の話である。
長身で筋肉質なゴワスと、女子にしては身長の高いヨシノリ。
その二人が体育館の真ん中で並び立つと、それだけで絵になる。
「じゃあゴワス、ドリブルからレイアップ軽く頼む。ヨシノリは後ろでついて走って、動きのリズム見るから」
「任せろ」
「はーい」
ゴワスはボールを受け取ると、自然に腰が落ちる。
部活仕込みのフォームは流石で、静かな体育館にバスケットボールの弾む音が乾いたリズムで響いた。
ボールが床を叩くたび、まるで体育館の空気が締まるようだった。
ゴワスがゴールへ加速すると、その少し後ろをヨシノリが追う。
二人の走る音と、吸い込まれるようなレイアップの軌道が、冬の体育館にテンポよく溶けていった。
「フォーム綺麗さー!」
「かっこいいじゃないか」
「ったく、調子狂うな……」
喜屋武とナイトの声に、ゴワスは照れたように頬を掻いた。
「今度はヨシノリがドリブルからレイアップで」
「りょーかい」
俺はカメラを構え、レンズ越しにヨシノリの動きを追う。
ヨシノリが助走をつけ、跳躍した瞬間、照明が髪を照り返し、ふわりと光が散った。
手だけでなく全身のバネを使った、素直で気持ちのいいジャンプ。
その美しさに、思わず息を呑む。
やっぱり、ヨシノリは改めて見ても美少女だよなぁ。
「ところでカナタ。そのカメラはどうしたんだい?」
ナイトが俺の手にある高級カメラを見て眉を上げた。
「……まさか、印税で買ったとか」
「バカ言え、印税は宣伝に突っ込んですっからかんだ。いや、重版分は入る予定だけど」
「じゃあ、一体どうやって?」
俺の言葉に、ナイトはますます怪訝な表情になっていく。
「手芸部の後藤の兄さんが慶明大の映像研究サークルに友達がいてな。借りてもらった」
「そんな友達の友達の友達みたいな遠さの人からよく借りれたね」
「ほとんど使ってないみたいだからな」
「映像研究サークルなのに?」
至極一般的な疑問である。
「あのな。慶明大の映像研究サークルってのは、碌に映像を撮らずにアニメや漫画の話ばっかりしているだけの集団なんだぞ」
「すごい既視感だ……」
そういえば、高校入学してすぐの頃もそんな話をした記憶がある。
文芸部といい、どうして慶明系列の文化部は中身が伴っていないのだろうか。
「一応、OBの顔も立てなきゃいけないから文化祭前に短い動画だけは撮っているらしいぞ。このカメラはそのためのものらしい」
「でもさー、いくら妹の友達だからって、よく高いカメラ貸してくれるね?」
喜屋武がマフラーの顔を埋めながら首を傾げる。
「俺やヨシノリの名前出したら一発だったらしい」
その瞬間、ヨシノリがぴたりと動きを止め、振り返った。
「へ? なんであたしの名前?」
「お前、冬コミの写真バズっただろ」
「え、あれ見てたの!?」
「向こうのサークルの人たちが『この人マジで可愛い!』って騒いでたらしい」
「や、やめて……なんか……むずがゆい……!」
ヨシノリは撮影用に軽く結んだ髪をいじりながら、耳まで真っ赤になっている。
普段は飄々としているくせに、こういうときは可愛いんだよな。反則である。
「お、俺はなんか言われてなかったのか」
ゴワスも気になったのか、恐る恐るといった様子で尋ねてきた。
「リリちゃんの弟君だよな? 最近勧められて動画見てる、だそうだ」
「……姉ちゃん」
どうやらリリさんが、大学でも弟の動画をさりげなく推しているらしい。
あのリリさんがそんなことを口にするはずもなく、黙って宣伝してくれていたのだろう。
「そんだけ信頼されたってことだ。ありがたく使わせてもらおう」
「……頑張ろ」
「俺もやってやるぜ!」
二人が返してきたその言葉は、誰かの期待に応えたいという熱のこもったものだった。
冬の体育館は冷えるのに、二人の熱気と撮影前の高揚感で不思議と温かく感じた。