疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第303話 本気の熱は寒さを超える

 体育館での撮影を終えて漫研の部室へ向かうと、外の冷たい空気に触れた喜屋武が寒そうにマフラーに顔を埋めた。

 ここ最近の喜屋武はずっとこうである。本当に寒いのがダメなのだろう。

 部室の扉を開けると、部室は相変わらず雑然としていた。

 片付けても片付けても本棚から溢れ落ちてくる同人誌、見慣れた古びた折りたたみ机。

 

「あったか……天国!」

 

 部室に足を踏み入れた瞬間、喜屋武の顔がぱぁっと明るくなる。

 部室の中はいつになく暖かかった。古い部室ながら電気ヒーターがフル稼働していて、ここだけ別世界のようにぬくぬくだ。

 

 部費が多めに支給されることもあって、設備投資にも回せる。これも漫研が文芸部に疎まれていた原因の一つだろう。

 一周目で文芸部にいたときの冬は地獄だったからなぁ。

 

「寒い……」

 

 部室の奥ではトト先が小さなストーブに背中をかざして湯たんぽを抱えている。

 

「そんな全身ぬっくぬくで言われても」

 

 トト先も寒いのは苦手なようで、完全防備なのに震えていた。

 こんな調子で去年はどうやって冬を乗り越えていたのか気になるところだ。

 

「カナタン、ここはわんの聖域さー!」

「まだ撮影あるから、あとで動いてもらうぞ」

「やだぁぁぁ! 動きたくないさー!」

 

 その叫びに、ケイコ先輩が液タブを準備しながらくすりと笑う。

 

「今のうちにあったまっておきなよ。あとで動いてもらうからね」

「ケイコ先輩は寒いの平気そうですね」

「一回集中すると感覚遮断されるから」

「あー、それはわかります」

「集中するまでが地獄」

「バケモノの世界……」

 

 名残惜しそうにしつつも、喜屋武はヒーターから離れた。

 そんなやり取りの横では、ゴワスが棚の上に置かれていた同人誌と画材の山を整理し始めていた。

 

「機材置く場所どうします?」

「そこは危ない。カメラ落ちたら終わりだから、机の上空けるぞ」

「了解」

 

 ヨシノリも自然と手伝い、あっという間に机がひとつ撮影スペースに変わった。

 

「部室が温かいとこんなに幸せなんだねぇ……」

 

 ケイコ先輩がカイロで手を温めながらしみじみ呟く。

 

「そうだ田中君。作業してる風に見えるページ、シンフォニア文庫側にも許可取っておいてね。カミラの聖剣に関しては、チラ見え程度ならいいって根本さんから許可出てるから」

「了解です。映り込みチェックもこっちでします」

 

 横ではトト先がアナログ机を展開し始めた。

 

「新作原稿、いくらでも描く」

「だから描かないでください。描いてる風でいいんですよ」

「……演技苦手」

「そういう問題じゃないんですよ。権利的にややこしくなるでしょうが」

 

 本当にこの先輩は自由すぎる。

 それから準備が整い、ケーブルの位置も決め終えたところで、俺は一度深呼吸してカメラの角度を確かめた。

 

「よし。セッティング完了だ。ゴワス、ゲーム画面つけてくれ」

「はいよ」

 

 電源が入り、モニターの光が部室を淡く照らす。

 途端、ゴワスの表情が変わった。体育館で見せていた運動部の顔とはまるで違う。

 

 これは本気でゲーマーを目指す者の顔だ。

 スティックを弾く音が軽快に響き、手元には迷いがない。

 俺はカメラを向け、まずは引きで全体を撮り、次に手元へ寄り、最後に表情を追う。

 

「斎藤めっちゃ真剣じゃん」

 

 ヨシノリが思わず漏らす。

 画面そのものは著作権対策でぼかすが、指の動きだけで上手さはそれとなく伝わる。

 

「今のすごくいいな。別アングルも撮るけど、一旦休憩」

「お、おう……!」

 

 ゴワスが椅子にもたれかかり、息をつく。

 緊張というより、全力でプレイした分の爽快感が滲んでいた。

 

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