疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第305話 極寒セッション。ただし沖縄娘は死ぬ

 放課後の軽音部の部室は、冬の空気がそのまま箱に詰め込まれたように冷たかった。暖房器具はゼロ。壁も床も冷え切っていて、たった今入ったばかりなのに、まるで体育の授業が終わった後の渡り廊下みたいな温度だった。

 

「うぅ……ヒーサン」

 

 震える声でそう呟きながら、喜屋武はドアを閉めた瞬間に縮こまった。

 ニット帽、マフラー、厚手のダウンまで着込んだ完全ミノムシ装備で、肩をぶるぶる震わせている。その状態じゃベースも弾けないだろ。

 アミが苦笑まじりに言う。

 

「キャンちゃん、その格好じゃ撮影できないよ」

「わ、わかってるさー! でも脱いだら死ぬ……! 絶対死ぬさー!」

「いや死なないから。言いすぎだよ」

「筋肉のミートテックに包まれた桃太郎には、この寒さの地獄がわからんのさー!」

 

 ヨシノリを超える長身かつ、パワー系ドラム女子の桃太郎に喜屋武は恨めし気な視線を送る。 

 

「まずは音合わせしましょう。ほら、キャンちゃん。準備してください」

「うぅぅぅ……!」

 

 肩を落としつつも、喜屋武は観念したようにマフラーを外し、ダウンを脱ぎ、セーター姿になった。脱いだ瞬間、部屋の冷たさが一斉に襲ったらしく、全身をぶるっと震わせる。

 だが、ベースを構えた途端に表情が引き締まった。

 

「……よし、やるさー!」

「キャンちゃんも楽器を持つとスイッチ入りますよね」

 

 アミが笑うと、喜屋武も少しだけマシな顔になった。

 

「いくよー、1、2……1、2、3!」

 

 桃太郎がスティックで軽くカウントを刻むと、ギターの澄んだ音が冷えた空気を貫いた。

 重いベースが追いかけてきて、桃太郎のドラムがリズムを織り込み、アミの歌声が滑り込むように重なる。

 

 自分で作詞した歌詞。それがアミによって歌いあげられていく。

 俺は興奮のあまり、寒さも忘れて聞き入ってしまっていた。

 

「自分を描こう~その夢の中に~♪ 汗拭って~心のままに~♪」

 

 アミの声が部室の壁を揺らす。

 俺が書いた歌詞なのに、他人が歌うとこうも感じ方が違うのか。寒さで固まっていた喜屋武の肩も、だんだんと音にほぐされていく。

 セッションが終わった頃には、喜屋武の呼吸は荒かったが、頬がうっすら赤くなっていた。

 

「キャンちゃん、いい感じです!」

「手動くようになったのはいいよね。もう一回いこっか!」

「ま、まだやるさー!?」

 

 それでも再びカウントが始まると、喜屋武は弱音を飲み込み、しっかり音を出した。

 どうやら演奏している間だけ、寒さを忘れられるらしい。

 部室の空気は一度として暖まらない。アミの歌声とみんなの楽器の振動が、凍えた空間をどうにか支えていた。

 それも時間が経つにつれて限界がやってくる。

 

「ふっ、ふふ……温かい……」

「あ、メイが壊れた」

「キャンちゃん、よく頑張りましたね! ほら、温かくしましょう!」

 

 アミが抱きかかえるようにして喜屋武を出口に引っ張る。

 

「アフロンが女神に見えるさ……!」

「実際女神ではあるよな」

「もう、カナタ君。冗談言ってないでキャンちゃんを運ぶの手伝ってください!」

 

 冷たくて、息が白くて、凍えるような部室の中。そこには確かな温かさがあった。

 

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