疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第306話 狂気は夢中すら凌駕する

 喜屋武をヒーターの効いた漫研の部室に避難させ、湯たんぽ・ブランケット・ケイコ先輩特製ホットドリンクの三点セットで完全に保温体制を整えてから、アミと軽音部の部室へ戻る。

 

「キャンちゃん、あれで復活してくれるといいんですけど……」

「大丈夫だろ。温度で性能が上下するだけみたいだし」

「変温動物じゃないんですから」

 

 階段を降り、渡り廊下に差し掛かったところで見知った顔に出会った。

 

「久しぶりだな、田中。佐藤」

 

 文化祭でアミたちと対バンしたバンド〝発狂シンセサイザ〟のベーシスト、多田野遊がそこにいた。

 

「多田野君?」

 

 部活でもあまり顔を合わせていなかったのか、アミが目を丸くする。

 

「最近、部活に来てなかったみたいですけど大丈夫ですか?」

 

 アミの言葉に、多田野は無表情のまま答える。

 

「ま、バンドも解散したし、彼女とも別れたからな」

「お前、またクラッシュしてるのかよ」

 

 相変わらず自己中心的な奴だ、と言いたいところではあるが、俺もあまり人のことは言えなかったりする。

 

「あのときの負けを糧に、どうすれば俺のやりたい音楽を届けられるのか。そう考えたときに自己満足なんてくだらないって思っただけだ」

 

 その声音には、どこか吹っ切れたような軽さと、まだ生々しく残る痛みが共存していた。

 

「正直。あの負けで失ったものも大きいけど、得たものも大きかった。だから、ありがとう」

 

 真剣な顔で頭を下げる多田野に、俺もアミもかける言葉が見つからなかった。

 窓の外。暗くなった空を眺めると、多田野は徐に呟いた。

 

「昔、桃が言ってたよ。努力は夢中に敵わない、ってね」

 

 ケイコ先輩も同じことを言っていた。

 努力を苦痛に思う人間は、努力を努力とも思わない人間に努力の質と量で勝てない。

 

「だけど、さ」

 

 多田野は俺をじっと見つめた。

 

「お前を見て、わからされた。狂気は夢中すら凌駕する。俺もそうありたいと思ったよ」

 

 アミが小さく息を呑む。

 俺は苦笑して肩をすくめた。

 

「あんまりおすすめはしないぞ。最悪、死ぬまであるからな」

 

 俺の返事に多田野はニヤリと笑った。

 

「俺はそれを知れてよかったよ。また立ち上がる理由になったから」

 

 その言葉には、虚勢がなかった。

 

「じゃあな。田中、佐藤」

 

 多田野は手をあげ、冬の光の中へ消えていった。

 静かに扉が閉まったあと、アミがぽつりと言った。

 

「でも、やっぱり彼女と別れるのはどうかと思います」

「それは……まあ、そうだな」

 

 別にそんなに深い関係じゃなさそうだし、いいんじゃないだろうか。

 二周目の高校生活を経て気がついたことだが、高校生って意外と付き合ってから長続きしない人も結構いるのだ。

 

 物語の中の大恋愛など、そうそう起こるものじゃない。

 それなら、多田野みたいなステータスの高いイケメン彼氏を期間限定でも手に入れられたというアドバンテージがあっただけ良かったんじゃないかとも思ってしまう。

 

「カナタ君。絶対、今ロクでもないこと考えてましたよね」

「ソンナコトナイヨ」

「はぁ……本当にどうなっても知りませんからね」

 

 何故かアミは俺に対して、呆れたような視線を向けてくるのであった。

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