疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
アミたちのバンド〝Named Monster〟の生演奏を聴いたことで、創作意欲がさらにかき立てられた。
だから、授業と授業の間。十分の休み時間の間も俺はMVがよりよくなるように構成を練り直していた。
「カナタ。またMVの構成直すの?」
ノートを覗き込んできたヨシノリが、ペンをくるくる回しながら呆れた顔をする。
「一ミリでもよくなる要素があるなら、作り手は努力をやめるべきじゃない。特に今回はな」
「適度に手を抜くことも覚えなよ」
「わかってるよ」
言いながらも、手は止まらなかった。
ページの余白には新しいカット割り、光の入り方、アミの歌声と絡めた編集案。
休憩時間中に書いたにしては、かなりの量になっていた。
「俺だってこの状態が続くとは思っていない」
またキャパオーバーを起こすわけにはいかない。
今後、プロとしてやっていくなら手を抜くというのは必要な技術なのは重々理解はしている。
それでも、二周目が始まって一年という節目に向けた集大成の作品において、手を抜くという発想はなかった。
「ホントに……そういうとこ、尊敬するけど大嫌いだよ」
ヨシノリはポニーテールを軽く揺らしながら、じっと俺の横顔を見てくる。
オレンジ色のアイシャドウが煌めき、視線が鋭くなる。
「最後のは余計だろ」
「さすがに、これ終わったら休みなよ? 漫画の隔週連載しながら商業でラノベ書いてる大先生なんだから」
「隔週連載っていっても、俺のはコミカライズだ。漫画向けに直すことはあるけど、負担の大部分はケイコ先輩だぞ」
何せ現状文庫本一巻分の原作ストックがあるのだ。単行本にすれば三巻……いや、描写を追加するから四巻分はいくか。
それだけストックがあれば、まだ大丈夫だ。
MV制作と並行して先にある程度アイディアもまとめてあるし、ポニテ馴染のときのような失敗は繰り返さない。
「ケイコ先輩もケイコ先輩で、なんであんなケロっとしてるの……」
「あの人こそ狂気の塊だからな」
「だよねぇ」
互いにうんうんと頷き合う。
ケイコ先輩は、小学生のときから、漫画家の父がいて隣にはトト先という地獄の環境でもがいてきた人だ。
一度折れてまた立ち上がったこともあり、今のケイコ先輩はこの創作の世界という地獄を心から楽しんでいた。
「そうだ、ヨシノリ。今日の夜は空いてるか?」
「部活終わりなら空いてるけど」
俺の言葉に、ヨシノリはポニーテールの毛先をいじりながらどこか期待するような素振りを見せる。
「帰り道にジャージ姿で帰るシーンと部屋でゴロゴロしてるシーンを撮りたいんだ」
「ああ……そっちね」
「他に何があるんだ」
ヨシノリは肩を落とすと深いため息をついた。
「てか、冬にジャージで帰るのはキツイんだけど」
「何の食べ放題がいい?」
「ケーキバイキングで手を打つわ」
「交渉成立だな」
チャイムが鳴り、次の授業が始まる合図が教室に響いた。
クラスメイトたちが席に戻っていく中、ヨシノリは俺のノートをちらりと覗いて、嬉しそうに笑う。
「カナタ。大嫌いとは言ったけど……あたし、こういう作り手が本気で動いてる瞬間を見るのは大好きだよ」
「何だよ急に」
「別にぃ? 言ってみただけ」
その横顔は、明らかに口元が緩んでいた。
俺はペンを止めて、少しだけ息を吐く。
このMVは、ただの動画じゃない。
アミの足跡、ヨシノリとゴワスの夢、そしてみんなで書き直してきた二周目の青春の証だ。
だから、絶対に最高の形で完成させる。
黒板にチョークの音が鳴り始めても、胸の奥の熱はまだ消えなかった。