疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
MV撮影自体は、驚くほどスケジュール通りに進行していた。
バンドパートも、冬の寒風が容赦なく吹き抜ける屋上での演奏撮影も、最終的にはどうにか撮り切ることができた。
もっとも、喜屋武だけは撮影の合間に定期的に本当に死にかけていたが。
しかし、大変だったのはむしろそのあとだ。
「頭がパンクしそうだ……ほんとに割れる……」
漫研の部室に戻ると、編集ソフトと格闘していたゴワスが、椅子にもたれたまま天井を仰いでいた。
「今のうちに慣れておけよー。将来的には生配信に移行して、編集は切り抜き師に任せることになるだろうけど、今のお前は全部自分でやらないとな」
「未来の俺に……投げたいっ」
「投げんな。今のお前が未来の土台なんだよ」
俺が言うと、ゴワスは机に突っ伏して呻いた。
「アミはどうやって普段から編集してるんだ……」
「アミはなぁ……だいたい自分の身体を映して演奏するだけだから、編集らしい編集はそんなにしてないんだよな」
「えっ、マジか?」
「いや、あいつはあいつで演奏力と表現力が必要だから、別ジャンルの地獄だぞ」
実際、アミだって本格的なMVは作っていない。
未来のAMUREはイラストレーターや動画編集者に依頼して豪華なMVを作っていたが、あれは知名度と資金力があるからこそ可能になったやつだ。
今の俺たちは、一界隈でちょっと有名になっただけの高校生に過ぎない。
だからこそ今が一番、土台を固めなければいけない時期だった。
「斎藤君。お疲れ様。ほら、エナドリの差し入れ」
ふいに背後からケイコ先輩の声がして、ゴワスの前にエナジードリンクが差し出された。
「あざっす、ケイコ先輩」
ゴワスはそれを受け取り、一気に飲み干した。
ケイコ先輩はその様子を見ながら、俺の方にも目を向けてくる。
「そういえば、田中君。連載が始まったカミラの聖剣だけど、すごく好評みたいだね」
「俺も根本さんから聞きました。アンケート、わざわざ編集部から持ってきてくれて……びっくりでした」
「根本さん、ああ見えてすごく情熱ある人だからねぇ。担当に恵まれたよ、ほんと」
担当編集の根本さんは、真面目で融通は効かないくせに、作品のためだと思えば全力でやるタイプだ。
最近は俺たちの伸びしろを信じているのか、やたらと熱量が高い。
その熱量が、作家としてはありがたい。
「あ、そうだ。田中君」
ケイコ先輩は手をポンと打った。
「知り合いの作家さんからヘルプ頼まれちゃって、しばらく部室空けるけど……大丈夫?」
「ヘルプですか?」
「うん。アシさんがインフルで全滅しちゃったらしいんだよ。昔、お父さんのアシをやってた作家さんでね。恩返ししたくて」
「おー、全然大丈夫ですよ。トト先も行くんですか?」
「自分も行く。アシスタント経験してみたかった」
トト先が原稿から顔を上げずに淡々と言った。
というかあの人、もう二巻の挿絵全部終わってるのに、いま描いてるの何なんだ?
「漫研の留守は守っときます」
俺が言うと、ケイコ先輩はふっと微笑んだ。
「じゃあ任せた……あ、斎藤君。動画編集、無理しすぎないようにね?」
「は、はい……」
隣でゴワスがエナドリの缶を握りしめ、震える手でマウスを動かし始める。
その姿に、ケイコ先輩は肩を揺らして笑った。
「斎藤君、たぶんすぐ慣れるよ。だって、夢中になってる顔してるもん」
「……顔に出てます?」
「出てる出てる。めちゃくちゃいい顔」
照れたようにゴワスは視線をそらした。
「まあ、夢中じゃなきゃ、やってられねぇっすけど」
「夢中になれるのは武器だよ、斎藤君」
「……あざっす」
部室は相変わらず暖かくて、相変わらず狭くて、相変わらず散らかっている。
創作の匂いが充満したこの空間は、間違いなく俺たちの居場所だった。