疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
MVも完成に近づいてきた頃。
最近、やけにコンビニのスイーツコーナーが騒がしいことに気がついた。
生チョコ、ガトーショコラ、焼きチョコ、ショコラタルト、カカオ72%だの生クリーム仕立てだの。
とにかく全部〝期間限定〟の札付きだ。
「最近チョコ系スイーツ多いけど、流行ってんのか?」
気になって授業前の教室で口にしてみたところ、近くにいたヨシノリやナイトだけでなく、クラス全体から「何言ってんだこいつ」という顔をされてしまった。
「……カナタ。まさか忘れてんの?」
「何を?」
「もうすぐバレンタインだよ」
ヨシノリが呆れた声で言った。
バレンタイン。そう言われてもみればもう二月だったか。
一周目では、ソシャゲのイベントくらいでしか縁がなかったからすっかり忘れていた。
会社でも特にチョコのやりとりはなかった。リリさんもそういうタイプじゃないからな。
それに、ここ数週間ずっとMV制作でバタバタしていたのだ。バレンタインのことなど頭の隅から抜け落ちていてもおかしくはない。
「気づいたからには無視できないな」
俺は急いでメモ帳を取り出す。
「今度は何を始めるつもり?」
ヨシノリが呆れたようにジトッとした視線を向けてくる
「クラス内の人間関係を整理して、誰が誰にチョコを渡すのか予測してる」
「やめなさいよ!?」
ヨシノリが俺の肩をいつもより強めに叩いた。
「いや、ほら、ネタになりそうなやつは当日にマークしておかないと」
「マークしてどうするつもり――いや、いい。もう何するかわかったから……」
ヨシノリは深いため息をつく。
俺たちのやりとりを見ていた周囲のクラスメイトがざわつき始める。
「田中、また小説の取材とか言ってなんかするつもりだぞ」
「やっぱり田中君って変人だよね……」
「文化祭のときはカッコイイと思ったんだけどなぁ」
随分な言われようである。
バレンタインなんて、恋愛イベントの宝庫だ。
学園もの書いてる作家なら絶対チェックする場面である。
俺は机にメモ帳を広げ、ペンを握り直した。
「まずは今も密かに続いてる坂下と森川の関係……これは二年目のバレンタイン回で使えそう。蒼井と田村は最近よく一緒に帰ってるし、これは両想い濃厚……本命疑惑っと。阿部と宮下はワンチャンある……いや、ないか……?」
「だから、やめなさいって言ってるでしょ」
「由紀ちゃん。こうなったカナタを止めるのは無理だよ」
「いや、ナイト君も手伝ってよ。親友なんでしょ」
「暖かく見守るのも親友の務めさ」
「この事なかれ主義め……」
「よし、当日が楽しみだ」
俺は今まで恋愛イベントに参加する余裕なんて、ほとんどなかった。
せっかく二周目でいろんな人間関係を観察してきたのだ。そこからどう発展するのか、このイベントで一つの結末をみることができる。
さながら観察キットで飼っていたサナギが蝶になる瞬間を見るようなものだ。
今からもうわくわくしてきたぞ。
「……で、カナタはチョコほしいの?」
そんな俺を見ていたのか、ヨシノリはふぅと息を吐いて呟く。
「まあ、くれるならほしい」
「めっちゃ興味なさそう……」
正直、バレンタイン当日はいろんな奴を観察するのに忙しくなりそうだし、自分に関してはどうでもいいんだよな。
「手作りチョコとか欲しくないわけ?」
「手作りって、湯煎して溶かしただけだろ。そもそも味で企業努力にかなうわけないんだから別にこだわりはないなぁ」
「あんたって本当に……」
まあ、俺の場合企業努力すらわからないバカ舌なのだが。
「女の子が頑張って手作りした本命チョコっていう情報で付加価値はあがるんじゃないの?」
「あ、それは確かにやばいな。ヨシノリ、俺に手作りチョコくれ」
「……世界一最悪なチョコの要求の仕方ね」
その日、何故か教室にいた女子からの視線が冷たかった。