疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
迎えたバレンタイン当日の朝。
教室に入った瞬間、俺は思考停止した。
黒板の前。教卓の上に片足を乗せて、アミがギターをかき鳴らしていた。
「あなたの心に~届かなくても~♪ かき回すよ~トキメキビター♪」
教室中に響くギターの旋律。
まるでライブハウスのような騒々しさだ。
朝のホームルーム前だというのに、男子はテンションが最高潮、女子も笑いながら手拍子している。
担任の長谷川先生はまだ来ていない。わかっていて見逃してくれているのだろうか。あの人ならあり得そうだ。
「なんでサラッと新曲作ってるんだよ……」
呆れ半分で言うと、アミは最後のコードをジャーンと鳴らし、満面の笑みで俺を見る。
「カナタ君。おはようございます!」
「おはよう……で、これは何を?」
「バレンタインソングです! その場のノリで作っちゃいました!」
だろうな。この衝動性、もはや才能である。
俺は自分の席に向かおうとしたが、その途中でアミに呼び止められた。
「はい、カナタ君」
差し出されたのは、一本のポッキー。
「もしかしてバレンタインの?」
正直、告白を断って振った身としては受け取るのは気まずいのだが……。
「義理ですから」
「まあ、それなら……」
俺がポッキーを受け取ると、アミは手を合わせてにこにこしている。
「はい、口に咥えてください!」
「は?」
「さあさあ!」
アミの勢いに押される形で、俺は半ば反射的にポッキーを咥えた。
その瞬間、アミがすっと距離を詰めてきた。
ふわりとアミの髪から、ほんのり甘いシャンプーの香りがして視界いっぱいにアミの顔が広がる。
きめ細かい肌。薄桃色の唇。
長いまつげが、彼女の瞳の影を柔らかく震わせていた。
アミの瞳には、どこかいたずらっぽい光が宿っていた。
「お返しは、今もらっちゃうので」
小さく囁かれ、息が頬に触れた。
近い。近い近い近い。
俺が噛む前に、アミがポッキーの先端へ唇を寄せる。
コリッ、と音を立てて、ギリギリのところを噛み切った。
距離は、数センチ。
アミの呼吸が、普通に俺の唇に触れそうな距離にあった。
ガチ恋距離からの特大ファンサとは恐れ入った。
「……ロックすぎるだろ」
「ふふん!」
アミはギターを担ぎ直し、ヒーローみたいに親指を立てた。
教室は朝から祭りのような熱気に包まれている。
そういえば、うちのクラスって流されやすくて盛り上がってれば正義なところがあったな……。
俺はため息をつきつつ、ポッキーの短くなった欠片を咀嚼した。
「……どうすっかなぁ」
バレンタインは観察しようと思っていたはずだが、すでに波乱の予感しかしなかった。
「み゛!」
ちなみに、隣の席のヨシノリは奇声を挙げて机に突っ伏していた。