疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
教室の騒がしさが少し落ち着いたあたりで、廊下からバタバタと駆け足の音が近づいてきた。
「みんなぁぁぁぁぁ! はいさぁぁぁい!」
次の瞬間、勢いよく扉が開き、喜屋武が両腕いっぱいに紙袋を抱えて教室へ突入してきた。
中身は、チョコ。チョコ。チョコ。さらにチョコ。個包装のチョコが大量である。
「えっ、鳴久!? 何その量!」
「今日はバレンタインデー。つまり、みんなに幸せを配る日さー!」
喜屋武はすでにテンションが宇宙に行っていた。
鼻息荒く紙袋を机に広げると、まるで豆まきでも始めるかのようにチョコを取り出す。
「はい! はい! はい! はい、みんな受け取ってー!!」
教室中にチョコを配り歩き始めた。
「キャンちゃん太っ腹だな!」
「やば、種類いっぱいある!」
「実は全部手作りだったりしない?」
「するわけないさー! 義理の義理さー! みんな幸せになーれ!」
クラス全体が祭りのような騒ぎになる。
男子は大歓喜。女子も笑いながら受け取っている。
「……稚魚の放流みたいだな」
というか、いくら個包装の小さいチョコとはいえ、こんな数揃えるのにはそれなりに金がかかったはずだ。
音楽をやっていて一人暮らしをしている喜屋武に、これだけの出費は辛いだろう。
「わんも今日だけは大盤振る舞いさー!」
喜屋武は胸を張りながらクラスの反対側へ移動し、さらにチョコをばら撒く準備をしている。
それから一通り回ったあと、喜屋武は俺の席にもやってきた。
「はい、カナタンもどうぞ!」
差し出されたのは、小奇麗な包装がされた袋だった。
「なんで俺だけちょっと豪華なんだ」
「カナタンだけじゃないさー。いつメンのみんなも特別さー」
「そういうね」
袋を受け取ると、ズッシリと重みが感じられる。結構ボリュームがありそうだ。
「これって……サーターアンダギーか」
実は一度食べてみたいとは思っていたのだ。
こういうご当地系の食べ物を、その県出身の人が用意してくれたというだけでもうれしい。
「うんま! あ、そうだ……喜屋武、いっぺーまーさん!」
「っ!」
とてもおいしい。そう伝えると、みるみるうちに喜屋武の頬が緩んでいく。
「まったく、カナタンは罪な男さー」
両手で頬をこねて表情を作り直すと、喜屋武は真剣な眼差しで俺を見据えてくる。
「……田中君、ありがとね。君がいたから今の私がいる。これはその感謝の気持ちだよ」
そして、流暢な標準語で俺に対する礼を述べた。
「えっ、喜屋武?」
「にひひっ、ビックリした?」
「普通にしゃべれるようになってたのか」
「まあね」
会ったばかりの頃の喜屋武は標準語でうまく話せず、沖縄弁でコミュニケーションが取りづらいことにコンプレックスを持っていた。
それがここまで成長していることに感動を覚える。
「努力したんだな」
「結果が出るまでやるのが努力、でしょ?」
悪戯っぽく笑うと、喜屋武はウィンクをする。
それから気恥ずかしくなったのか、段々と頬が赤く染まっていった。
「よし、わんはまだチョコ残ってるから行ってくるさー!」
「まだ配るのかよ」
「全員に行き渡ったらチョコの神様になれるさー!」
言いながら、喜屋武は再び走り出す。
その後ろ姿からわかるほど、喜屋武は耳まで真っ赤になっていた。