疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
バレンタインは忙しい一日となった。
「いやぁ、豊作豊作」
クラスの女子からも文化祭のお礼と称して義理チョコをもらったり、マークしていたカップルの観察をしたり、校内をあちこち奔走している内に一日が過ぎていった。
ちなみに、トト先とケイコ先輩は忙しくてチョコどころじゃなかったようだ。
「ふぅあぁ……原稿やらないと」
早速もらったチョコを口に放り込んで糖分補給をして作業に取り掛かる。
それにしても、まさか俺がクラスの女子から普通に義理チョコをもらう日が来るなんて思いもしなかった。
これがクラスに馴染むということなのだろうか。
ゴワスは俺がモテると言っていたが、同じクラスの女子の竜胆に聞いたところただの文化祭マジックとのこと。
魔法は解けて、俺の評価はイベントごとに強い変人作家に落ち着いたらしい。
それに加えて、一時期はヨシノリが嫉妬で一部の女子から嫌われていた話も聞いた。
今では俺の評価が制御の出来ない変人に戻ったことで、ヨシノリの好感度も元に戻ったらしい。女子って怖いね。
「……カナタ、いる?」
そんなことを考えながら作業をしていると、ドアの向こうから聞き慣れた声がした。
ドアを開けると、少しだけ頬を赤くしたヨシノリが立っていた。ポニーテールの先を指でいじっているのは、緊張してるときの癖だ。
「わざわざ着替えてきたのか。ちょうど一区切りついたとこだぞ」
「なら、うん。よかった」
その言い方が妙に歯切れ悪くて、俺は首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「…………」
ヨシノリはしばらく黙ったまま、部屋の中をぐるぐる歩き回り、
俺のゲーム棚を見たり、カーテンをいじったり、意味のない動作を繰り返した。
そして、意を決したようにこちらへ向き直る。
「ちょっと、渡したいものがあって」
「チョコだろ? 事前に聞いてたし、そんな緊張するもんでもないだろ」
「あんたって、ホントにデリカシーがないわね!」
ヨシノリはぷくっと頬を膨らませたあと、深呼吸して部屋に入ってきた。
「ほら、これ! お望みの手作りチョコ!」
ヨシノリはまたポニーテールをいじり、頬をほんのり赤く染めながら言う。
「うちのクラス、朝からバカみたいに騒がしかったじゃん……あーちゃんのせいで。だから、その……落ち着いた場所で渡すほうが、いいかなって思って」
「うちのクラスは陽キャっぽいことできればそれでいい節あるもんな」
当然、アミは長谷川先生に見つかって生徒指導室に連れていかれていた。あんな無茶苦茶やって反省文一枚で済ませてあげる長谷川先生も大概甘い。
「ありがとくいただくよ」
包みを開けてチョコを口に入れる。
「っ!?」
すると、舌の上でチョコがあっという間に溶けていく。
これは……生チョコというやつだろうか。
「うまっ、え? こういうチョコって手作りできるのか?」
「ふふん! 愛夏ちゃんに教わったわ」
「あいつの料理スキルはどこまで上がっていくんだ」
田中家がメシマズ一家だったことがここまでいい方向に転がるとはなぁ。
「来月のホワイトデー、覚悟しといてよ?」
「なんで?」
「お返し期待するに決まってるでしょ。こういうのって、相場は倍返しだからね」
「倍返しか……」
実際問題、手作りの倍返しってどうすればいいんだろうか。
海外の高級チョコとか買えばいいのか? ヨシノリの場合、質より量っぽいし、判断に困るところだ。
「重版分の印税と電子の印税……あとは漫画の収入を足せば足りるか?」
「待って、待って待って! あんた何倍返しにする気よ!?」
俺の呟きにヨシノリが慌て始める。
せっかくだし、温泉旅行くらいはプレゼントしようと思っていたのだが、ダメだっただろうか。
「しっかし、マジでうまいなこれ」
俺はもう一つチョコをつまんで口に入れながら、少しだけ視線を落とす。
ただ甘いだけじゃない。
生チョコの柔らかさに、ヨシノリの不器用な優しさがそのまま詰まっているような味がした。やっぱり、料理って素材の味とか調理工程とかじゃなくて、情報が一番だな。
「なに、その顔」
「どんな顔だよ」
「なんか、すごい真剣に味わってるじゃん。恥ずかし……」
ヨシノリはポニーテールの毛先をほぐすみたいにいじりながら、ソファの端に腰を下ろした。
「うまいよ。本当に」
「そ、良かったわね。貴重な幼馴染の手作りチョコよ。ありがたく思いなさい」
そう言うと、ヨシノリはそっぽを向いた。
机の上に広がる義理チョコに、俺の手の中にあるヨシノリからもらった手作りチョコ。
そのどれもが、この一年で変わった人間関係を象徴している気がした。
二周目の一年が終わる。そして、確かに今を生きているという実感がある。
画面を閉じたPC、机に広げた創作資料、MV構成案メモ。
全部が、次のページへ進むための積み重ねだ。
「なぁ、ヨシノリ」
「……何よ?」
「今日は、ありがとう」
素直に言うと、ヨシノリは返事もしないで、ただ小さく笑った。