疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
私の名前は斎藤梨利子。
ITベンチャー企業である株式会社リブライズのマーケティング部WEBページ作成チームのリーダーをしているしがないSEだ。
気がつけば、アラフォー。社内での立場も出世しないように気をつけつつ、いい感じに安定している頃だ。
代り映えのない毎日のはずが、ここ数年は波乱万丈だった。
夢を応援していた部下は亡くなるし、弟は清掃作業中の事故で入院。
それに加えて、元カレが女装レイヤーとして有名になっていたことが発覚したのだ。
大学時代に別れた彼氏だったが、部屋に女物の服があったのに言い訳ばっかりで最後まで本当のことは話してくれなかった。
あのとき、女装が趣味と言ってくれれば私だって素直に応援できたのに。
まあ、全ては終わったことだ。
信用できない彼氏といるより、自由な独身の人生を謳歌するだけだ。
「そう、終わったことなんだよね……君がいなくなったことも」
私は墓石の前におちょこを置いて日本酒を注ぐ。
「このお酒。私が好きで飲んでたのに、いつからか君もずっとこればっかり飲むようになったよね」
亡くなった部下の田中奏太。
お世辞にも昔は仕事ができる社員じゃなかった。
それでも、愚直に努力するし、どんなに怒られてもすぐに立ち直るメンタルの強さがあった。
夢も何もなしにこの調子で大丈夫なのだろうかと心配していたから、彼が面談で小説家になりたいという夢を語ってくれたときは嬉しかった。
素直に応援したくなったのだ。
休憩時間も一緒にお昼に行けないことを謝罪しつつ、真剣な顔で夢に向かって駆ける田中は眩しかった。
「でも、止めるべきだった」
田中君が無理をしていることは薄々感じていた。
恐ろしいことに、そんな状態だったのにも関わらず仕事面では一切影響を出さず、むしろ昔より成長していたから〝業務に影響が出る〟という建前で止められなかった。
あんなに真っすぐな目で、夢に向かって走る君を〝上司の私情〟で止めることはできなかったのだ。
「ごめんね、本当に……ごめんね」
自然と涙が零れ落ちる。
彼が止まれなくなったのも私のせいだ。
『田中君。なんか目標未達でもいいやって思ってない?』
『いいやというか……僕なり努力してダメだったので、仕方ないんじゃないかなぁって』
『あのねぇ……結果が出るまでやるのが努力だよ。目標が未達だったのなら改善しなきゃ次も同じ結果になるのは見えてるでしょ。私がアドバイスしたことも一切反映させないし、その後の相談もしてないのは怠慢だよ』
『それは……』
それは田中君が入社三年目のダメ社員だった頃の個人面談でのことだった。
自分なりに頑張ったと言い訳をする彼に喝を入れるために告げた言葉。
いつものように聞き流されていると思ったその言葉を彼は胸に刻んでいた。
『リリさん! 何かお手伝いできることはありますか!』
『今日はやること全部やったし、上がっちゃっていいよ』
『承知いたしました!』
『最近、業務目標も余裕で達成するようになったし、頑張ってるね』
『結果が出るまでやるのが努力ですから』
そう返されたとき、私は嬉しかったのだ。
ちゃんと届いていたのだと。努力の末に、彼は結果を出した。
会社にも、確かに貢献していた。
「……それなのに、死んじゃダメでしょ」
自分用のおちょこにも酒を注ぎ、一気に呷る。
「君は、自慢の部下だったよ」
言葉にすると、胸が痛む。
結果が出るまでやるのが努力――それは、彼を支えた言葉であり、同時に彼を追い詰めた呪いだったのかもしれない。
「こんなことならさ……」
呟きは、風に溶ける。
「自分を大切にすることも、教えておくんだったな」
墓石の前で、私はしばらく立ち上がれなかった。
終わったことなのに。
終わったはずなのに。
後悔だけが、静かに積もり続けていた。