疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
三月十四日。ホワイトデーがやってきた。
バレンタインデーのときとは打って変わって、教室に浮ついた空気はほとんどない。
なんというか、ホワイトデーというイベント自体が、全体的に地味だ。
ラブコメでもクローズアップされるのは大体バレンタインデーばかりで、ホワイトデー回が強く印象に残る作品は少ない。
それもそのはずで、ホワイトデーというのはバレンタインデーありきのイベントだ。主役は常に、想いを伝える側にいる。
恋する女の子は作劇的に映える。
一方で、お返しをする男子は必要最低限の役割しかこなしていないから映えない。
まあ、そもそもホワイトデーって借金の返済日みたいなものだからな。
そんなことを考えながら、俺は鞄の中身を確認していた。
まとめて用意した小袋が、きっちりと数を揃えて入っている。
「カナタ。もう配るのかい?」
「休み時間のうちに終わらせとく」
ナイトにそう返して、席を立つ。
こういうのはダラダラやるより、さっさと終わらせたほうがいい。
「月見里。竜胆。はい、これ」
「お、律儀だね」
「ありがとー」
この二人とはそこまで絡みはないが、文化祭のときはクラス運営のほうで世話になった。
俺が倒れてから、この二人は特に動いてくれていた。初めから積極的にやってくれれば苦労も少なかったと言えば、そうなんだけども。
「ちょ、ディゴバの高いやつじゃん」
「カナタ君。作家になって金銭感覚バグっちゃった?」
「世話になった人にはちゃんと気持ちも込めて返すってだけだ」
「いやいやいや! それで言うと私らのが世話になってるから!」
「文化祭とか、カナタ君がいなかったら、ああはならなかったもんね」
俺の言葉に、月見里と竜胆は顔を見合わせた。
「そういうとこだよね、田中君」
「妙なところで律儀なんだよねー」
呆れと感心が半々、といった表情だ。
「借りを作るのが嫌なだけだ」
「それを律儀って言うんだよ」
軽く笑い合って、二人はそれ以上踏み込んでこなかった。
やっぱり、クラスの女子とはこのくらいの距離感がちょうどいい。
俺はそのまま教室を回る。
義理チョコをくれた相手、文化祭や委員会で関わりのあった相手。
全員に同じ袋ではあるが、値段も内容も最低限は揃えてある。
「ありがと」
「サンキュー」
「ちゃんとしてるね」
返ってくる言葉は、どれも似たり寄ったりだ。
大きなリアクションも、意味深な沈黙もない。
この教室にいる誰もが、ホワイトデーにドラマを期待しているわけじゃない。
それでも、途中で何人かから含みのある視線を向けられた気がするが、気にしないことにする。
俺の評判は竜胆曰く、ただの文化祭マジック。
もし、また魔法がかかったのなら再度しっかりディスペルしておかねば。
「はい、これで全員分……っと」
小袋の数が合っているのを確認して、鞄を閉じる。
クラス用の分は、これで終わりだ。
そう思った瞬間、肩の力が少し抜けた。
借金返済という表現はあながち間違っていなくて、義理のお返しというのは、やってしまえばそれで終わる作業だ。
実際、教室の空気もそんな感じだった。
誰かが騒ぐわけでもなく、かといって完全に無関心というわけでもない。
受け取った側は礼を述べて、それ以上は踏み込まない。
渡す側も必要以上に何かを期待している様子はなく、淡々としている。
それが、今日の教室の正しい温度だった。