疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第32話 未来の義姉候補は初恋拗らせ激重女

「げほっ、けほっ……!」

 

 由紀ちゃんは突然むせて、喉を押さえながら咳き込む。

 

「ちょっと大丈夫?」

「……びっくりさせないでよ」

 

 慌てて背中を擦ると、涙目でこちらを睨む由紀ちゃん。けれど、その顔はほんのり赤い。

 

「どうせ小学校から好きだったんでしょ。さすがにわかるって」

 

 そうじゃなきゃ、中学で疎遠になったド陰キャの執筆マシーンにここまで尽くしたりしないだろう。

 

「……いや、その、幼稚園から」

「嘘でしょ」

 

 普通そこまで初恋拗らせることある?

 しかも大して顔が良いわけでもない、あの執筆マシーン相手に?

 

「絶対苦労するよ?」

「あはは、それはもうしてるから大丈夫」

 

 由紀ちゃんは乾いた笑いをこぼしながら、再び麦茶に口を付ける。

 その横顔は、恋する乙女の顔だった。

 まったく、お兄ちゃんは罪な男だ。

 

「何かあれだね」

「うん?」

 

 だけど、それと同時に思ったことがある。

 

「由紀ちゃんって、突然出てきた巨乳女に好きな人搔っ攫われそうだよねぇ」

「きょ、にゅう!?」

 

 漫画でも由紀ちゃんみたいなタイプって、ぽっと出のヒロインに主人公奪われがちなんだよねぇ。確か負けヒロインって言うだっけ。

 

「そういえば、あーちゃん……最近カナタを見る目がちょっと……」

 

 半分冗談のつもりだったのに、どうやら巨乳女に心当たりがあったようだ。

 

「その〝あーちゃん〟ってどんな子なの?」

「あたしやカナタの同じグループの子でね。苗字はあたしと同じ佐藤で、下の名前はアフロディーテって言うんだけど、クラスで一番可愛くておっぱいも大きいから他の女子に嫉妬されがちでね。名前をいじられたくないから隠してたんだけど、カナタが昼休みに暴露して何とかなって、それであーちゃんがカナタのことを好きになっちゃったっぽい……」

「ごめん、待って待って。情報量が多い」

 

 話だけ聞いてたらお兄ちゃんがクソ最悪なことをしたようにしか思えないんだけど。そういえば、昔から由紀ちゃんは説明が下手だった。

 

 ちゃんと話を聞いてみよう。

 それからパニクっている由紀ちゃんを落ち着かせて話を聞いてみると、最悪どころかお兄ちゃんはなかなかの大立ち回りをしたようだ。

 確かに、いろんなことがクリティカルヒットしてるせいで、巨乳アフロディーテさんがお兄ちゃんに惚れてもおかしくはないかもしれない。

 

「それに、あーちゃんってクリエイター気質な人に憧れがあるみたいなの」

「由紀ちゃん、かわいそうに……」

「もう振られたみたいな空気出すのやめてぇ!?」

 

 由紀ちゃんは私の肩を掴むとガクガクと揺さぶってくる。

 

「でも、どうしよう愛夏ちゃん」

 

 正直、由紀ちゃんが将来的に義理の姉になるのは大歓迎だ。

 ただ現実的な話、高校生カップルが結婚まで行くとは思えないんだよね。

 

「由紀ちゃんって、サバサバ系気取ってるけど、実際は初恋拗らせ激重女だもんね」

「さっきから辛辣過ぎない!?」

 

 そのとき、ぐぅ~っと、間の抜けた音が響いた。

 

「……今の、私じゃないからね?」

 

 由紀ちゃんが恥ずかしそうに言う。明らかに彼女のお腹からの音だった。

 

「ふふっ、お腹すいてるなら何か作ってあげよっか」

「い、いいの?」

「もちろん。じゃあ、オムライスで」

 

 そう言うと、由紀ちゃんはパァッと顔を輝かせた。こういうところが可愛いんだよなぁ。

 

「ありがと! 愛夏ちゃんのオムライス、美味しいから大好き!」

 

 私は笑いながらキッチンに向かい、冷蔵庫の中を確認する。

 卵もご飯もケチャップもある。問題なし。

 

「じゃあ、ちゃちゃっと作るから座って待ってて」

「うん!」

 

 キッチンで手際よく調理を進める。

 ジュウジュウとバターが溶ける音、ケチャップライスを炒める香ばしい匂いがリビングに広がる。

 出来上がったオムライスを由紀ちゃんの前に置くと、彼女は目を輝かせた。

 

「いただきまーす!」

 

 パクッと一口食べると、由紀ちゃんは満面の笑みを浮かべた。

 

「んー、やっぱり美味しい! 愛夏ちゃん、天才!」

「ふふん、でしょー?」

 

 たまに家で料理しても、お兄ちゃんはバカ舌どころか食事をただの栄養補給としか思ってないからこういう反応は得られない。だからこそ、食いしん坊な由紀ちゃんは見ていて目の保養になるのだ。

 

「てかさぁ、告白しないの」

 

 由紀ちゃんがもぐもぐと食べている姿を見ながら、私は再び口を開く。

 

「……まだその話するの?」

「だって、解決してないし」

 

 どうすればいいか聞いてきたのは由紀ちゃんのほうじゃない。

 

「カナタ、告白したら小説の糧になるからって恋愛感情ないまま付き合いそうじゃない?」

「そんなことは……あるね」

 

 由紀ちゃんには申し訳ないけど、容易に想像できてしまった。あの執筆マシーンめ。

 

「あっ、たぶん脈ならあるよ」

「え?」

 

 そうだよ。脈ならあるはずだ。

 前にお兄ちゃんに、眩い青春を送るなら由紀ちゃんと付き合ったりしないのか。もし告白されたらどうするのか。そんなことを聞いたときのことだ。

 

『いや、ヨシノリに告白されたら断るぞ。だって、俺の小説のためにそこまで付き合わせるのは悪いだろ?』

『ちなみに、他の子から告られたらどうするの?』

『そりゃ秒でオッケーするだろ。ま、そんなことはあり得ないけどな』

 

 とんでもないクソボケ最低回答が返ってきたことは置いておいて。

 

「大丈夫だよ。お兄ちゃん、由紀ちゃんだけは告白されても絶対断るって言ってたからさ!」

「脈ないどころか火葬されてない?」

「あと、他の子に告られたら秒でオッケーするとも」

「納骨されちゃった……」

 

 由紀ちゃんはスプーンを持つ手を止め、遠い目をした。

 うーん、脈はあると思うんだよね。

 他の子に対しては小説の踏み台程度にしか思ってなさそうなんだけど、由紀ちゃんだけは特別視してる。そんな気がするのだ。

 

 まあ、意識して異性として見ないように気をつけているってことは、進展させるのも難しいんだけどね。

 

「ごちそうさま。オムライス、ありがとね。すごくおいしかったよ」

 

 暫くしてオムライスを食べ終えた由紀ちゃんは食器を軽く洗ってシンクに置き、ふらふらとした足取りで二階へと上がって行った。

 

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