疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第320話 義理は義理でも+α

 お昼を食べ終えたあとの昼休み後半。

 俺は軽音部の部室の前で一度だけ深呼吸してから、扉をノックした。

 

「はーい!」

 

 返事と同時に、ギターの音が止まる。

 

「失礼します」

 

 扉を開けると、最近ネットでの知名度が上がってきた三人がいた。

 

「どうしたんですか、カナタ君」

「珍しいさー。昼休みに部室に来るなんて」

 

 ギターを肩に掛けたアミと、ベースを下ろした喜屋武。

 ドラムセットの前では、スティックを指で回しながら桃太郎がこちらを見ていた。

 

「ホワイトデーのお返しにきた」

 

 俺が一言そう言うと、三人の表情が揃って変わる。

 

「あー……」

「そういえば、今日だったさー」

「あんたらあげるだけあげて忘れてたろ」

 

 呆れたように桃太郎が肩をすくめる。

 俺は紙袋を持ち直し、まずアミの前に立った。

 

「アミ。バレンタインはありがとな」

 

 差し出したのは、シンプルな包装の小袋。

 

「これは義理ですか?」

「種も仕掛けもない義理チョコだ」

 

 アミは一瞬だけ俺の顔を見てから、素直に受け取った。

 

「……わかりました。ありがたく受け取ります」

「おう」

 

 袋の中身を覗き、アミが小さく目を見開く。

 

「あ、これ……」

「一応、のど飴とハンドクリームも入れておいた。結構使うだろうし」

 

 市販のチョコに特別感のないただの実用品。

 これなら義理かつ友人としては特別という枠に入るだろう。

 

「気が利きすぎじゃないですか」

「必要そうだったから選んだだけだ」

 

 アミは少しだけ笑って、袋を閉じた。

 

「ありがとうございます。素直に嬉しいです」

「喜んでもらえて何よりだ」

 

 次に、俺は喜屋武へ向き直る。

 

「喜屋武はこれだ」

「わんにも?」

 

 同じ大きさ、同じ包装の紙袋を手渡す。

 

「中身は?」

「開けてみろ」

 

 喜屋武は袋を覗き、すぐに顔を綻ばせた。

 

「おお……!」

「まだまだ寒いから使えると思ってな」

 

 寒さに弱い喜屋武には暖かい手袋を買った。

 チョコ+αで考えたときに、これしか思いつかなかったのだ。沖縄系のものはバイト先で手に入るだろうし。

 

「……暖かいな」

 

 喜屋武は嬉しそうに何度も頷く。

 

「ちゃんとわんの分もお返し考えてくれて嬉しいさー! にーふぇどー!」

「考えない義理はただの作業だからな」

 

 一拍置いて、俺は付け足す。

 

「あと、バレンタインのときの言葉。ありがとな、嬉しかった」

「………………」

 

 喜屋武は一瞬だけ目を瞬かせ、それから照れたように笑った。

 

「そこ拾うの、ずるいさー」

「いや、嬉しかったからつい」

「まったく、田中君は、まったく……」

 

 袋を抱え直し、喜屋武は小さく頷いた。

 やり取りを見ていた桃太郎が、スティックを肩に担ぐ。

 

「かー、これだからクリエイターは……」

「主語がデカいっての。俺を多田野と一緒にするなよ」

「どうかな」

 

 桃太郎はドラムセットに向き直り、アンプの電源を入れた。

 

「ほら、練習戻ろ。昼休み終わるよ」

「了解さー」

「はいはい。じゃあ、練習頑張れよ」

 

 俺は軽く頭を下げ、部室を後にした。

 これ以上あの空間にいると、俺がドラムの代わりに叩かれそうな気がしたからである。

 

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