疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第321話 期待していいお返し

 今日一日、ヨシノリはずっとそわそわして落ち着かない様子だった。

 授業中も、休み時間も、視線がやたらとこちらに飛んでくる。

 俺がクラスの中で、一人ずつバレンタインのお返しを配っていく様子を、ヨシノリは隣の席から全部見ていた。

 

 だから、自分の番が来ないことが気にならないはずがない。

 むしろ、来ないからこそ意識せずにはいられなかったのだろう。

 

 結局、昼休みが終わっても、放課後になっても、ヨシノリのそわそわは収まらなかった。

 帰りの電車の中でも、何度か言いかけてはやめる、を繰り返していた。

 

「で、いつになったらお返しは来るの?」

 

 とうとう我慢の限界に達したらしく、大島駅に着いたタイミングでそう切り出された。

 

「まさか、〝まるちゃま〟で済まそうとしてないわよね?」

 

 少し前のめりになりながら、ヨシノリは半眼で俺を睨んでくる。

 その表情は、半分は冗談。

 もう半分は、はっきりとした本気だった。

 

「涎垂らしながら言われたら、リクエストしてるみたいだぞ」

「ちょ、垂らしてないし!」

 

 即座に否定が返ってくる。

 

「顔がもう〝ラーメン大好き佐藤さん〟なんだよ」

 

 俺の家からすぐ近くにあるラーメン屋〝まるちゃま〟。

 提供が早くて、量もあって、味もいい。

 ヨシノリとも何度も足を運んだ馴染みの店だ。

 確かに、二人で行く分には申し分ない。

 

 だが、さすがにホワイトデーのお返しがラーメンというのは、いくらなんでも雑すぎる。

 相手がヨシノリなら〝それでも成立しそう〟なのが、また厄介なのだが。

 

「安心しろ。ちゃんと用意はしてある」

「ホントに?」

 

 疑いの混じった声で、ヨシノリがこちらを見る。

 

「自分から要求しておいて、お返ししないのはやばいだろ」

 

 俺は改札を抜けながら、少しだけ言葉を選んだ。

 

「スケジュールとか、もろもろ確認が必要なんだ。だから、帰ってから話したほうがいいと思ってな」

「……帰ってから?」

 

 ヨシノリが一瞬だけ足を止める。

 

「今日もうち来るだろ」

「え?」

 

 思ったよりも素直な反応が返ってきた。

 

「あ、ああ……うん。行くけど……」

 

 言いながら、ヨシノリは視線を逸らした。

 さっきまでの勢いはどこへやら、声のトーンも少しだけ下がっている。

 

「なんで?」

「だから、確認事項があるって言っただろ」

「……それ、重要なやつ?」

「まあ、重要だな」

 

 そこまで言うと、ヨシノリは露骨に黙り込んだ。

 歩くスピードが、ほんの少しだけ俺と揃う。

 並んで歩く距離が、自然と縮まる。

 

「ねえ、カナタ」

「ん?」

「まさかとは思うけど」

 

 一瞬、言葉に詰まってから、ヨシノリはぼそっと続けた。

 

「ラーメンよりは、期待していいやつ?」

「少なくとも、まるちゃまではない」

「そっか」

 

 それだけで、ヨシノリの口元が緩む。

 何を想像しているのかは、わからないが期待はしてくれているのだろう。

 

「じゃ、楽しみにしとく」

「過度な期待はするなよ」

「それは無理」

 

 即答だった。

 夕方のホームに、電車が滑り込んでくる。

 ドアが開く音に混じって、ヨシノリが小さく息を吸ったのがわかった。

 

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