疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
家に着くと、ヨシノリはいつものように靴を脱ぎ、慣れた足取りでリビングへ向かった。
この光景自体は、もう何十回も繰り返している。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい。由紀ちゃん」
珍しく家にいた母さんが、リビングでくつろぎながら声を掛ける。
ヨシノリも自然に会釈を返す。
部屋に入った俺は、さっそくPCを立ち上げる。
「で、お返しの話だけど」
ベッドに腰を下ろしたヨシノリが、こちらを見る。
「確認が必要って言ったろ」
「言ってたね」
俺は画面を操作し、ひとつの予約画面を開いた。
「まだキャンセルはできる」
「キャンセル?」
ヨシノリが小さく首を傾げる。
「でも、行く前提で話を進めたい」
「行くって、どこに?」
「ここだ」
俺は立ち上げたPCの画面をヨシノリへと見せる。
「ほー、熱川プリンセスホテルねぇ……」
熱川にある熱川プリンセスホテル。
バナナワニ園が近くにあるとはいえ、伊豆の中でも観光地としてはそこまで派手な場所じゃない。
映えるスポットが多いわけでもなければ、若者向けの娯楽が充実しているわけでもない。
一週目、俺は大学生のときに一人旅でそこを訪れたことがあった。
日帰り温泉だったが、スタッフの対応、館内の空気、湯の質。
どれを取っても、やけに印象に残っている。
ああいう場所は、誰かと行くときのほうが価値がある。
当時はそう思えなかったが、今なら断言できる。
だからこそ、ここなら大丈夫だと思えた。
宿泊すれば、きっといい思い出になる。
そんなわけで、今回のホワイトデーのお返しとして、俺はヨシノリに熱川旅行をプレゼントすることにしたのだ。
「ちょっと待って……旅行?」
「おう」
ヨシノリの声が、わずかに裏返る。
「金ならあるぞ。重版出来したし、電子書籍の収入もあるからな」
「そこじゃない!」
即座にツッコミが飛んできた。
「なんで、そういう話をそんな顔で淡々とするのよ!」
「事実を述べただけだ」
「そういう問題じゃない!」
ヨシノリはソファから身を乗り出し、俺を睨む。
「泊まり?」
「泊まり」
「二人で?」
「二人で」
一つ答えるたびに、ヨシノリの顔が赤くなっていく。
「……ねえ、それ本当にお返しなの?」
「バレンタインのお返しだが」
「重すぎない?」
「そうか?」
少し考える。
「俺としては、ちゃんと喜んでもらえるものを選んだつもりだ」
「普通はチョコとかでしょ!」
「一瞬で消える食べ物より、思い出のほうがいいだろ」
俺がそう言うと、ヨシノリは言葉に詰まった。
「嫌なら、キャンセルはできるから、確認が必要だって言ったんだ」
「……ずるい」
小さく、ぼそっと呟かれる。
「そんな言い方されたら、断りづらいでしょ」
「無理にとは言ってない」
ヨシノリは視線を逸らし、しばらく黙り込んだ。
視線が落ち、膝の上で指が絡まる。
「そ、それで……」
「ん?」
「いつ行くの」
その問いに、俺は正直に答える。
「春休み」
「…………え?」
その一言だけを残して、ヨシノリは固まったまま動かなくなった。