疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
旅行に行くとしたら春休み。
学生である俺たちにとっては、これ以上ないほど都合のいい時期だ。
学年末試験が終わり、終業式を越えれば、そのまま長い休みに入る。
部活も一段落し、進路の話も一区切りつく。
日程としては、完璧だ。
「スピード感がエグい……」
ヨシノリが、半ば呆然とした声で呟く。
つい数日前まで「ホワイトデーのお返し、なに?」と軽口を叩いていた相手が、気づけば旅行の話を進め、親への許可まで取り付け始めているのだ。
そりゃ感覚が追いつかなくて当然だろう。
「やると決めたときには、既に動き出してなきゃな」
考より行。行しながら考、だ
ヨシノリがジト目で俺を見る。
「聞こえはいいけど、雑すぎない?」
「止まって考えている間にチャンスが消えることもある。行動するのは大切だ」
そんなやり取りをしている最中、ヨシノリはふと、何かに引っかかったように眉を寄せた。
「……ちょっと待って」
「ん?」
「未成年が宿泊予約するときって、親の同意が必要よね」
そこに気づいてしまったか。
「そうだな」
「誰に同意もらったの?」
「父さん」
「あんた、さらっと和奏さんに話通すの避けたわね」
「別に、両親からの許可が必要なわけじゃないからな」
俺は肩をすくめる。
「必要なのはあくまで保護者の同意だ」
「理屈はそうだけど……」
「父さんはその条件を満たしてる」
父さんは基本的に放任主義だ。
こちらが筋の通った説明をすれば、感情論で止めてくることはない。
「それに、母さんに話したら――」
「うちのママにも秒で話が行くもんね」
ヨシノリが、ゲンナリした顔で続ける。
その点については、否定できない。
うちの母さんと紀香さんの情報網は、想像以上に強固だ。
「だから、今はまだ準備期間だ」
「準備?」
「説得が難しい人間を相手にするときは、材料が要る」
今はまだ母親組に伝えるべきではない。
説得に必要な要素は揃えなくてはいけない。
「ヨシノリ、学年末試験は本気で上位を取りに行け」
「えぇぇぇ!?」
結構ガチ目に悲鳴が上がる。
「無理無理無理! あたし、勉強嫌いなの知ってるでしょ!」
「安心しろ。今回はズルありだ」
「えっ、ズルって?」
ヨシノリの目が、ぱっと輝く。
「先生の出題傾向、過去問を全部洗って、限りなく本番に近い擬似問を作る」
俺も今回の試験では、一位を取りに行くつもりだった。
どうせやるなら、徹底的にだ。
「それを丸暗記すれば、上位に食い込める」
「答え丸暗記していいの?」
「もちろん」
「試験終わったあと、全部忘れちゃってもいいの!?」
「当たり前だろ」
「じゃあ、直前まで何もやらなくていいよね!?」
「それはさすがに、毎日少しずつ暗記していけ」
「ちぇー……」
いくらなんでも勉強嫌いすぎるだろ。
学生にとって成績というのは親を説得するための、これ以上なく分かりやすい材料だ。
中身が伴っていなくても、数字さえ出せば信用される。
そういう意味では、学校という場所も、社会の縮図なのだろう。
そして迎えた、学年末試験。
俺は予定通り、一位。ヨシノリは、まさかの大健闘十九位だ。
「じゅ、十九位……!?」
本人が、一番信じられないという顔をしていた。
「すごくない!? これ!」
「……ほぼカンニングに近いけどな」
一周目の知識も使える範囲でフル動員だったしな。
「人生で一番いい順位なんだけど!」
通知表を握りしめて、ヨシノリは小さくガッツポーズを作る。
これで、材料は揃った。あとは、使いどころを間違えなければいい。
春休みの旅行へ向けて、盤面は、着実に整いつつあった。