疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
春休みに入る前。
俺とヨシノリは、二人の母親を前に正座していた。
リビングの中央。
母さんと紀香さんが並んで仁王立ちしている光景は、なかなかに迫力がある。
どちらか一人ならまだしも、二人揃うと逃げ場がない。
「で?」
腕を組んだ母さんが、低い声で切り出した。
「私たちに隠して、二人で旅行を計画していたことについて申し開きはある?」
隣で紀香さんも、深くため息をつく。
「まったく、あなたたちは……」
まず、視線が俺に向けられた。
「春休みに二人で旅行?」
「そう」
「泊まり?」
「泊まり」
即答すると、母さんは一瞬だけ言葉を失い、露骨に顔をしかめた。
「……どういう経緯で、そうなったの」
「ホワイトデーのお返し」
「ごめん、経緯を聞いても、まったく理解できないんだけど」
困惑したように、母さんはこめかみを押さえる。
「形に残るものより、思い出のほうがいいと思った」
「理屈としてはわかるわよ。でも、高校生でやる金額じゃないでしょ」
「金ならあるぞ」
「……そうだった」
母さんは、ぐったりした声で呟いた。
「こいつ、プロ作家だった……」
沈黙が落ちる。
その空気に耐えきれなかったのか、ヨシノリが小さく身じろぎした。
「わ、和奏さん。私から言い出したわけじゃなくて……」
「わかってるわ」
ヨシノリの弁解に、母さんは苦笑する。
「由紀ちゃんを責めてるわけじゃないの。そこは安心して」
「……はい」
一度、大きく息を吐いてから、母さんは紀香さんのほうを見る。
「紀香は、どう思う?」
「そうね……」
紀香さんは少し考えてから、俺に視線を向けた。
「カナタ君は信用できると思ってるわ」
それから一拍置いて、続ける。
「でも、うちの娘がカナタ君を襲わないかのほうが心配かしら」
「えっ、心配されてたのそっち!?」
紀香さんの懸念に、思わずヨシノリが声を上げる。
「だってそうでしょ」
紀香さんは涼しい顔でヨシノリへ告げる。
「由紀、昔から勢いで突っ走るタイプじゃない」
「今その話関係ある!?」
「大ありよ」
紀香さんの言葉に、母さんも納得したように頷く。
「確かに……由紀ちゃん、テンション上がると歯止め効かなくなるもんね」
「ちょっと! 二人ともひどくない!?」
そんなやり取りをしながらも、二人の表情はどこか歯切れが悪い。
反対したいが、完全に否定できる理由も見つからない。
そんな迷いが、はっきりと見て取れた。
「正直に言うとね。許可を出していいのか、悩んでるの」
「隠して進めたのはアウトだけど」
「準備不足ってわけでもないのが、余計に厄介なのよ」
母さんも、紀香さんも腕を組んで考え込む。
「成績は?」
「二人とも上位」
「行き先は?」
「ちゃんとした温泉地」
「宿泊先は?」
「ちょっとお高めのちゃんとしたホテルだ」
二人とも、ぐうの音も出ない。
そこで、俺は静かに口を開いた。
「ちなみに、もう予約はしている」
二人の視線が、一斉に俺に突き刺さる。
「キャンセルはできるけど、キャンセル料が発生する」
「…………」
部屋の空気が、ぴたりと固まった。
「……いくら?」
紀香さんが小さく聞く。
俺は黙ってスマホの画面を見せた。
「結構、いい額だろ」
「…………」
「心血注いで作り出した作品で得た収入を突っ込んだんだ。これはさすがに……もったいないよな?」
その瞬間だった。
二人の母親が、ほぼ同時に天井を仰いだ。
「……やられた」
「完全に、はめられた」
母さんが額を押さえ、紀香さんは肩を落とす。
これでわかってもらえただろう。
反対されようが既に保護者(父さん)の同意を取って予約をしている。金も全額俺自身が稼いだ金から出す。
これは許可を取っているようで、決定事項を告げているだけなのだ。
「最初から、ここまで計算してたの?」
「結果的にそうなっただけだ」
「嘘おっしゃい」
長い沈黙のあと、しかめっ面で母さんは口を開く。
「……条件付きで、許可するわ」
「そうね。それしかないみたい」
二人は顔を見合わせ、渋々ながら頷いた。
「行程は全部共有、連絡はこまめに」
「一線は超えないこと」
「もちろん守る」
「い、一線なんて超えないから!」
二人の出した条件に、俺たちは即答した。
「はぁ……」
しばらくの沈黙の後、母さんが深く息を吐く。
「お金の話された時点で、もう負けよ」
「ホントそれ」
その横で、ヨシノリが小さく呟く。
「……ねえ、カナタ」
「ん?」
「これ、絶対最初から狙ってたでしょ」
「結果的にだ」
不満そうな顔をしながらも、ヨシノリの声はどこか浮かれていた。
こうして春休みの旅行は、半ば強引に決まったのだった。