疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
幼馴染と二人で温泉旅行。
高校生ではまずありえないシチュエーションに、胸の奥が静かに浮き立っていた。
集合場所は、俺の家の前。
まだ空が完全に明るくなる前の時間帯で、三月とはいえ空気はしっかりと冷えている。
一応、春物のコートを着てきて正解だった。
コートの下はパーカーとジーンズというシンプルな服装にしておいた。
一泊二日だけの旅行だから、荷物もリュックと小さなボストンバックのみで済ませている。
「おはよ」
声と同時に、足音が近づいてくる。
ヨシノリは、少し明るめの色合いのジャケットにロングスカートという格好だった。
足元はスニーカーで、動きやすさ重視。
首元には薄手のストールを巻いていて、春先らしい軽さはありつつも、防寒はしっかりしている。
ポニーテールが春の風に揺れ、オレンジ色のアイシャドウが朝日に煌めいていた。
「思ったより寒いね」
「春先は冬が抜けきっていないからな」
そう言っているうちに、背後からエンジン音が聞こえてきた。
紀香さんの車だ。
「ちゃんと時間通りね」
窓を開けて、紀香さんが言う。
「忘れ物ない?」
「大丈夫だよ。ママ」
「……ホントに?」
ヨシノリが疑うような視線を向けられる。そういえば、小学校のときの遠足の前もこんな風に紀香さんに言われてたっけか。
「じゃ、行きましょ」
ヨシノリと後部座席に並んで座る。
車内は暖房が効いていて、外の冷え込みとの温度差に一瞬だけ気が緩んだ。
東京駅までは、早朝ということもあって道は空いている。
車窓を流れる景色を眺めながら、ヨシノリが小さく息を吐いた。
「あっ、ハンドクリーム塗らなきゃ……」
そう呟くと、ヨシノリはバッグから中身がスカスカになったハンドクリームのチューブを取り出した。
蓋を開けて空気を入れ、よく振る。歯磨き粉のチューブでよくやるやつである。
ぶぴぴっと、空気が抜けるような間の抜けた音が鳴る。
「うわっ、出しすぎた!」
「なんか既視感あるな……」
思った以上にクリームが出てしまい、ヨシノリは少し困った顔をする。
「カナタ。ちょっと、手ぇ出して」
「おう」
言われた通り、素直に手を差し出すと、ヨシノリは俺の両手を包み込むようにして、ゆっくりとクリームを塗り広げ始めた。
「はい、おすそ分け」
「押しつけの間違いだろ」
「別にいいでしょ。あんた相変わらずタイピングばっかりで指カサカサなんだから。ケアはちゃんとしなさい」
「わーってるよ」
「よろしい」
指の間まで丁寧に伸ばされ、軽くマッサージされる。
ほんのり甘い香りが鼻をかすめ、思わず息を飲んだ。
去年も、似たようなことがあったな、とふと思い出す。
あのときも、こんな距離感で。
ただの幼馴染だったはずなのに、今は少しだけ意味合いが違う。
「それじゃ、楽しんできなさい」
東京駅に着くと、紀香さんは車を出した。
「送迎ありがとうございました」
「お土産期待しててねー」
まずは熱海へ向かい、そこから伊豆急行線に乗り換える。
車窓に広がる景色が、少しずつ都会から離れていく。
俺はリュックを足元に置き、座席に深く腰掛ける。
ヨシノリはストールを直しながら、窓の外を眺めていた。