疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
伊豆急行線に揺られることしばらくして、アナウンスが流れた。
「次は、伊豆熱川。伊豆熱川です」
窓の外に見える景色が、ぐっと近くなる。
海と山が距離の近さを主張するように迫ってきて、駅そのものもどこか素朴だ。
「意外とあっという間に着いたね」
「お前、ずっともっちゃもっちゃ何か食ってたな……」
駅弁二つ食べたあとにも、事前に買っておいたお菓子がすっからかんになっていた。
よくそれでスタイル維持できるな……。未来の姿を知っているだけに心配になってしまう。
「久しぶりだな、この感じ……」
電車を降りた瞬間、空気が違うとわかる。
潮の匂いに、ほんのりと混じる硫黄の気配。
温泉地に来た、という実感が一気に押し寄せてきた。
「あれ、カナタって熱川来たことあるの?」
「いや、初めてだ。ヨシノリと二人なのが久しぶりってことだ」
「あー、そういうね」
一周目の記憶が滲み出てきたのをサラッと誤魔化す。
ホームは観光地にしては静かで、騒がしさはない。
早春の観光シーズンはこれから、という時期なのだろう。
改札を抜けると、すぐにそれらしい人物が目に入った。
スーツ姿の男性が一人、プラカードを持って立っている。
はっきりと〝熱川プリンセスホテル〟と書かれた文字。到着前に連絡を入れておいたから事前に迎えに来てくれたのだろう。
「あれじゃない?」
「多分、そうだな」
近づくと、男性はすぐにこちらに気づき、柔らかく頭を下げた。
「熱川プリンセスホテルでございます。ご予約の田中様でお間違いないでしょうか」
「はい。田中です」
「お待ちしておりました。お荷物をお預かりいたしますね」
そう言って、手際よく俺たちのボストンバックに目を向ける。
一泊二日分の軽装だが、人に荷物を持ってもらうと妙に落ち着かない。
「チェックインのお時間までは、少しございますので」
「はい」
「お荷物はお預かりして、チェックインまでにお部屋へ運ばせていただきます」
ホテルマンとしては当たり前の対応なのに、言葉遣いと所作がやけに丁寧で背筋が伸びる。
「なんか、すごいね……」
小声でヨシノリが言う。
「そういうところだから選んだ」
俺がそう言うと、ヨシノリはこちらを見て、嬉しそうにほほ笑んだ。
駅前に停められていた送迎車へ案内される。
「ホテルまではすぐ着きますので」
「ありがとうございます」
車に乗り込み、シートに身を預ける。
窓の外には、坂道と古い旅館、そしてその隙間から見える海。
「思ってたより、落ち着いたところだね」
「派手さはないけど、悪くないだろ」
「うん、こういうのもいいかも」
そう言って、ヨシノリは小さく笑った。
ほどなくして、車は緩やかな坂の途中で止まった。
視界が開け、建物全体が見える。
熱川プリンセスホテルの外観は、大きく開けた正面入口と、低く長い屋根がまず目に入る。車寄せを覆うように伸びた屋根は直線的で、旅館らしい落ち着いた和風の意匠だ。
車を降りると、ロビーへ案内される。
中に入った瞬間、温泉特有の柔らかな暖かさと、落ち着いた香りに包まれた。
「チェックインは十五時からとなっております」
フロントの女性が説明を続ける。
「それまでの間、ロビーや周辺の散策をお楽しみいただけます」
「了解です」
荷物はすでにタグを付けられ、奥へと運ばれていく。
「身軽になると、なんか実感湧くね」
「旅行来たって感じするな」
俺がそう言うと、ヨシノリはストールを整えながら頷いた。
「それで、ここからどうするの?」
「まだ時間あるし、少し歩くか」
「賛成!」
こうして、チェックイン前のゆるやかな時間が始まった。