疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
ホテルに荷物を預けた俺たちは、特に行き先を決めることもなく、熱川周辺をぶらぶらと歩いていた。
少し坂の多い道。潮の匂いを含んだ風が、ゆるやかに頬を撫でていく。
スマホで〝熱川 観光〟と検索すれば、それなりに候補は出てくる。
どれも悪くはないし、普通の観光旅行なら立ち寄るべき場所なのだろう。
けれど、今回は違う。
この旅行の目的は、観光地を制覇することじゃない。
ヨシノリに、何も考えずに肩の力を抜いてもらうこと。それだけだ。
俺もヨシノリも、それぞれ夢に向かって走っている最中だ。
忙しない日々は、小説の糧になる。
だが、走り続けるためには、意識的に立ち止まる時間も必要だ。
「それにしてもさ」
ヨシノリが、歩きながらぽつりと口を開く。
「カナタと二人で旅行に来るなんて、思ってもみなかった」
「俺もだ」
「計画したあんたがそれ言う?」
そう言いながらも、声に棘はない。
ヨシノリはポケットに手を突っ込み、足元の石畳を見ながら歩いている。
「こうやって二人で旅行先を散策するの、久しぶりだよな」
「え?」
ヨシノリが顔を上げる。
「小三のとき、町内会の旅行で抜け出してバチクソに怒られただろ」
「なっつ! よく覚えてるわねぇ……!」
途端に、ヨシノリの表情が一気に緩んだ。
「そりゃヨシノリに強引に連れ出されたからな」
「うっ……当時は冒険してみたかったのよ」
「冒険の結果、母さんと紀香さんの雷が落ちたけどな」
「あのときの和奏さん、マジで怖かった……」
「しかもシューヤや平井たちは俺たちは止めたんですけどねとか言う始末だし」
「庇ってくれたのキクりんくらいだったもんね」
二人して、思わず笑ってしまう。
春先の静かな温泉街に、俺たちの笑い声が少しだけ響いた。
「どうして小学生の頃の話は覚えてる癖に、中学のときの記憶はまるっとないのよ」
「記憶に紐付けるための引っかかりすらなかったってことだよ」
未だに中学のときの情報はほとんどない。
わかったことと言えば、小説の設定を練っていたことと、モンスターに自分とヨシノリの名前を付けてタマゴを産ませていたということだけ。
碌な情報がなさ過ぎて笑えてくる。
「ヨシノリから見て中学のときの俺はどうだったんだ?」
「そうねぇ……」
ヨシノリは顎に人差し指を立てて首を傾げる。
「話しかけてもぶっきらぼうな感じで、いつも申し訳なさそうにしてたかな」
「申し訳なさそうに?」
想像していた答えと違うものが返ってきて、つい聞き返してしまった。
「あたしがそう感じたってだけの話なんだけどね」
そう前置きすると、ヨシノリは続ける。
「話しかけても今忙しいとか言われたし、一緒に帰ろうって誘っても、ミステリーの新刊読みたいから図書室に残るとか言われるし、取りつく島もなかったわ」
幼馴染が気にかけて話しかけてくれているというのに、その対応はないだろう昔の俺。
少なくとも、モンスターに名前付けてタマゴ産ませてる場合ではないだろう。
「……それはマジですまん」
「いいよ。昔の話だし」
俺の謝罪にヨシノリは苦笑した。
「それにあのときは嫌われたと思ってたけど、そうじゃなかったみたいだから許したげる」
温泉地で見る幼馴染の笑顔。
この笑顔を一周目の俺は見ることができなかった。
それだけでも、ここに来た意味はあったように感じられた。