疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
ほどなくして、店主のおじさんが大きな皿を両手で抱えるようにして戻ってきた。
その時点で、ただならぬ存在感がある。
「お待たせ」
テーブルに置かれた瞬間、視線は自然とそこに吸い寄せられた。
淡い青緑色の大皿。その中央に、殻を残したまま立体的に盛り付けられた伊勢エビが鎮座している。
濃い赤褐色の殻は艶やかで、ところどころに粗塩が付着している。
左右に大きく開かれた脚は、今にも動き出しそうな緊張感を保っており、長い触角は天を突くように上へと伸びていた。
その直後だった。
ぴくり、と。
脚がわずかに跳ねる。続けて触角の先が、生き物であったことを主張するかのように揺れた。
「すごーい……!」
ヨシノリの声が、わずかに裏返る。
「まだ動いてる! 見て見て、動いてるよこれ!」
「そりゃ、さっきまで生け簀にいたやつだからな……」
「いただきまーす!」
ヨシノリは迷いなく箸を伸ばしていた。
「その流れでぬるっと捕食行動に移れるの、ほんとすごいな、お前」
完全に脊髄反射である。
いくら新鮮でも、普通は一拍置くだろう。
慌ててスマホを取り出し、動画を回す。
「いくらなんでも、脳が食欲に支配され過ぎだろ」
ヨシノリの箸に持ち上げられた伊勢エビの身は、淡い桜色をしていた。
細かく包丁が入れられているのがわかるが、繊維は潰れていない。
光を受けて、表面が瑞々しくきらめく。
ぷるり、と。
重力に従うように、形を変える。
もはや食材というより、半透明の宝石に近い。
「ん~!」
一切れを口に入れた瞬間、ヨシノリは目を見開いた。
「なにこれ!? めっちゃぶりんぶりんじゃん! もうこれ、ぶりんぶりんのブリだよ!」
「お前、脳のフィルター一切通さずに喋ってるだろ」
脊髄反射で感想を垂れ流すヨシノリに、思わず苦笑が漏れる。
ヨシノリが身を噛むたびに、ぷつりとした弾力が伝わってくるのが、見ているだけでもわかる。
ヨシノリは一口食べては黙り込み、次の一口を食べては、意味のない擬音を発する。
「……これは反則」
「だろ?」
俺は肩をすくめた。
「高校生らしからぬマネーパワーで実現した一品だからな」
「ホントにね……」
ヨシノリは皿の上の伊勢エビを見下ろし、少しだけ表情を和らげる。
「さて、俺もいただきます」
俺も箸を取り、伊勢エビの身を口に運ぶ。
噛んだ瞬間、甘みが広がり、遅れて濃厚な旨味が追いかけてくる。
やっぱり、これは別格だ。バカ舌な俺でもわかる。
「んー、これは……」
俺は正直な感想を口にした。
「伊勢エビって、ちゃんと伊勢エビの味がするんだよな」
「なにそのバカみたいな感想」
ヨシノリは笑いながら、また一切れ口に運ぶ。
この旅行で伊勢エビを食べたという事実は、間違いなくヨシノリの記憶に強く刻まれることだろう。