疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
伊勢エビをしっかり堪能した俺たちは、チェックインのためにホテルに戻ることにした。
バナナワニ園の散策は今回はお預けだ。
別に行ってもいいのだが、園内自体が広いため回るなら観光目的、それも大人数の方が楽しいと思ったからだ。
今回はあくまでも慰安旅行だからな。
「改めて思うけどさ」
遠巻きにバナナワニ園を眺めながらヨシノリが首を傾げる。
「なんでバナナとワニなの?」
「温泉の熱がバナナの栽培に向いてたのと、バナナだけだとインパクトが弱いから、飼育環境的にも相性のいいワニを展示したらウケた、って流れだったはずだ」
「なるほど……」
ヨシノリは納得したように頷いたあと、少し困った顔になる。
「あたし、てっきり〝バナナワニ〟って種類のワニがいるのかと思ってた」
「それは完全に海賊漫画の読みすぎだろ」
「だってなんかいそうじゃん!」
実際、某有名海賊漫画でバナナワニが登場する巻は、園内の一角にしっかり展示されていたりする。
「それじゃ、チェックインとしゃれ込むか」
俺が予約した部屋は熱川プリンセスホテルの中でもプレミアムエリアに属する部屋で、ホテル屋上にある露天風呂まですぐ行ける最上階の部屋だ。
フロントでチェックインを済ませ、鍵を受け取ろうとした、そのときだった。
「あの、田中様……大変申し訳ございません」
フロント係の女性が、ほんのわずかに声のトーンを落としてこちらを呼び止める。
業務用の丁寧な笑顔の奥に、申し訳なさが滲んでいた。
「何かありましたか?」
「本日ご予約いただいておりましたお部屋なのですが……設備点検の関係で、急遽ご利用いただけなくなってしまいまして」
ヨシノリが、ぴくりと反応する。
「えっ」
「その代わりと申しますか」
フロント係は一度だけ深く頭を下げてから、言葉を続けた。
「檜の露天風呂付き客室に、空きが出まして。もしよろしければ、追加料金なしでそちらへご案内させていただけないかと」
一瞬、ロビーの空気が止まった。
「……露天風呂付き?」
ヨシノリが、聞き返す。
「はい。お部屋専用の檜風呂で、源泉掛け流しになります」
説明を受けるほどに、条件は明らかに〝上〟だった。
元々予約していたのは、最上階で屋上露天にアクセスしやすいプレミアムフロア。
それでも十分すぎるほどだったのに、さらに上積みが来るとは。
「カナタ」
「ん?」
「……めっちゃラッキーじゃん!」
声を潜める気配もなく、ヨシノリが素直にそう言った。
「正直、都合良すぎて怖いくらいだな」
「でも向こうから言ってきたんだし、いいんじゃない?」
俺は一度だけ、フロント係を見る。
「こちらは特に問題ありません。お願いします」
「ありがとうございます。すぐにご案内いたしますね」
そうして通されたのは、エレベーターの最上階。
廊下に出た瞬間、空気が変わったのがはっきりとわかった。
足音が吸い込まれるように静かで、外のざわめきが一切届かない。
「なんか……別世界じゃない?」
「値段帯が違うフロアって感じだな」
案内された部屋の襖が開く。
畳の香り。
木目の美しい天井。
低めのベッドが二つ並び、障子の向こうには、海を望むバルコニー。
そして――
「うわ……」
部屋の奥、半屋外になったスペースに、檜の露天風呂が鎮座していた。
湯気がほんのりと立ち上り、檜特有のやわらかな香りが鼻をくすぐる。
「……これ、ほんとに同じ料金?」
「念のため聞くけど、後で請求されないよな」
「大丈夫です。本日はあくまで代替のお部屋ですので」
フロント係はそう言って、丁寧に頭を下げた。
案内の人が退出し、部屋に二人きりになる。
「……現実?」
「多分な」
ヨシノリは、しばらく檜風呂の前で立ち尽くしてから、ぽつりと呟いた。
「慰安旅行って言ってたけど……慰安、過剰じゃない?」
「ホテル側の都合も込みだ。深く考えると負けだぞ」
少々出来すぎている気はする。
けれど、現実にはこういうことも起こる。
小説より奇なり、とはよく言ったものだ。
「じゃあ……」
ヨシノリが、振り返ってにやりと笑う。
「せっかくだし、遠慮なく癒されよっか」
「だな」
結果的に、想像していたよりもずっと贅沢な一泊二日になりそうだった。
少なくとも――この時点では