疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第332話 屋上露天風呂には上位存在

 部屋に露天風呂が付いている。それは文句なく素晴らしい。

 だが、それはそれとして、屋上にある露天風呂も気になるというものだった。

 せっかく高いホテルに泊まるのだ。

 書く側の人間としても、きちんと体験しておかないと損をした気分になる。

 

「要するに、取材でしょ?」

 

 ヨシノリは呆れたように言いながらも、もう半分察している顔だった。

 

「わかってるって。女湯がどんな感じなのか、見てきてあげるわ」

「やっぱ持つべきものは異性の幼馴染だな」

「……このタイミングでそんなこと言われても、別に嬉しくないから」

 

 屋上へ続く通路の先には、バーのようなラウンジがあり、その奥に露天風呂用の脱衣所があった。

 作りは簡素で、必要最低限。

 おそらく構造上、これ以上広くは取れなかったのだろう。

 

「……おお」

 

 湯に浸かると思わず、声が漏れた。

 屋上露天風呂からの眺めは、昼の光に満ちていた。

 

 視線を遠くへ向ければ、海がある。

 水平線に沿って、穏やかな青が伸びていた。

 防波堤の向こうで波が砕ける様子が、ここからでもかすかに見える。

 風は海の匂いを含んでいて、ほんのりと塩気が混じる。

 湯気と一緒にそれが鼻を抜けていくのが、やけに心地いい。

 

 眼下には、坂に沿って折り重なるように建つ熱川の町並みが広がっている。

 坂道を歩く観光客、旅館の前で立ち止まる家族連れ、荷物を運ぶ従業員。

 観光地としての熱川ではなく、人が暮らす町としての熱川が、そこにあった。

 

「あ~……」

 

 外気のひんやりとした感触と、湯の温かさが合わさって、気持ちよさが加速する。

 これだから露天風呂はやめられない。

 長時間の執筆作業を続けていると、肩も腰も、気づかないうちに凝ってくる。

 こうして湯に浸かって初めて、自分がどれだけ疲れていたのかを思い知らされる。

 

「おっさんみたいな声だね」

 

 不意に、背後から声がした。

 

「……いや、実際おっさんではあったか。北王路先生」

「っ!?」

 

 反射的に振り向く。

 そこには、翡翠色の髪をした少女が、何食わぬ顔で湯に浸かっていた。

 昼の光を受けて、その色合いが妙に現実離れして見える。

 

「ここは……男湯、ですよ」

「その会話に意味がないことくらい、理解しているだろう。北王路先生」

「文化祭のときの占い師か」

「正解。君にわかりやすく言えば、上位存在ってところかな」

 

 嫌な予感しかしない。

 

「上位存在がわざわざ出張ってくるってことは、俺が何かやらかしたか」

「そうだけど、そうじゃないんだよねぇ」

 

 少女は肩まで湯に沈みながら、どこか楽しそうに笑った。

 

「まあまあ。せっかくの温泉だ。この景色を眺めながら、ゆっくり話そうじゃないか」

 

 昼の熱川を見下ろす屋上露天風呂で、俺はまた一つ、面倒な話に巻き込まれることになるらしい。

 

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