疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
二周目において、俺は一周目で叶えられなかった夢を追いかけることだけに意識を向けてきた。
脇目も振らず走り続けた結果、自分の身に起きたタイムリープという異常な状況そのものを、いつの間にか意識の外へ追いやっていた。
「さて、何から話そうか」
向かいにいるのは、タイムリープに関与している存在。
本人の説明によれば、俺が時間を飛び越えたことで世界にいくつかの問題が生じているらしい。
その内容は、まだ聞かされていない。
「その前に、名前を教えてくれないか」
「私に名前はないよ。そういう役割の存在だからね」
「それじゃ不便だ。
「即興で命名するとは、さすが作家先生だね」
上位存在改め伊代は、面白そうに目を細めた。
「前提として、私から話せることは多くない」
そう前置きしてから、伊代は言葉を続ける。
「不用意な情報は修正力に引っかかる。君に伝えた内容そのものが、なかったことになる可能性もある」
「要するに禁則事項か」
「その認識で問題ないよ」
伊代は湯船の縁に肘をつき、視線を熱川の街並みへ向けた。
昼の光に照らされた温泉街は、何事も起きていないかのように穏やかだった。
「そもそも、この世界は君の過去そのものじゃない」
伊代は淡々と語る。
「君がやり直したいと強く願った、高校時代を起点に構築されたIFの世界だ」
「並行世界、という理解でいいのか」
「そう考えてくれていい。一周目の世界とは細部が異なる部分も多い」
伊代は一度言葉を区切り、続けた。
「世界的感染症や大規模な自然災害のような、歴史の大きな流れは変わらず発生する。その枠組みまでは、君の意思で動かせない」
それは救いなのか、制約なのか。
少なくとも、この世界が都合のいいやり直しではないことだけは、はっきりと伝わってきた。
「俺が作家やってるのは問題ないのか」
「もちろんだ。本来、君は世界から見れば大したことのない人間だからね。異世界ラノベ風に言えば村人Aだ」
「その例えだと、だいぶ大した人間に聞こえるけどな……」
露骨にモブっぽい奴だと、なろう系で主人公にあてがわれがちだし。
「話が逸れたね。要するに、君が自分や誰の運命を変えようとも、ひとつの世界規模で見れば大きな問題にはならないということだ」
「なら、どうして俺の前に姿を現したんだ」
「田中奏太という人間は大したことなくても、北王路魚瀧という作家は世界にとって影響力のある人間だからだ」
伊予は俺の一周目におけるペンネームを口にした。
「作家になれなかった人間に影響力があるわけないだろ」
「作家にはなれなかったけど、神にはなってしまったのが問題なんだ」
「は? 神?」
いきなり話題が明後日の方向へぶっ飛んでいった。
「この世界は、一周目における君の遺作である新人賞へ出した作品――現実をベースにしたラブコメ作品を元にして作られているんだ」
そして、告げられた真実に俺は言葉を失うしかなかった。