疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
伊代の言葉はあまりにも現実離れしていて、すぐには飲み込めなかった。
「俺が、神って……どういう意味だ」
「文字通りの意味だよ。君が書いた世界が、この世界だ。創造主なんだから神と呼ぶのが妥当だろう」
俺が書いた世界。
一周目の最後に、大賞へ出したラブコメ作品。
それが、この世界だというのか。
「君の身に起きた現象はタイムリープじゃない。近い概念で言えば異世界転生だ」
「現実をベースにしたラブコメ主人公に転生した、ということか」
「その通り。この世界は生まれたばかりで不安定なんだ。主人公である君が物語の大筋から外れただけで、大きく揺らぐ。だから私は修正を入れている」
「……前から、おかしいとは思ってた」
ヨシノリに何かを伝えようとするたび、感情が強制的に切り替わる感覚。
思考が途中で遮断されるような、あの違和感。
あれは世界の修正力だったのか。
「アミに告白されたあと、記憶が曖昧だったのも?」
「あれは大変だったよ。かなり大きな修正が必要になった。君の推しは、本当に厄介だ」
やはり、あの日の記憶は正常ではなかった。
虫食いのように欠けていて、輪郭が曖昧だった理由にも納得がいく。
「君が感情を持たない執筆マシーンのままなら問題はなかった」
伊代は淡々と言う。
「ところが君は人と関わり、縁を結び、人間として成長してしまった」
「それは悪いことなのか」
「良いことだよ。ただし、ラブコメ主人公としては不都合が生じた」
伊代は少し考えるように視線を落とし、問いを投げかけてきた。
「ラブコメが終わる瞬間って、何だと思う?」
「ヒロインとくっついたときだろ」
少女漫画ならともかく、ラブコメのゴールは明確だ。
結ばれた先を描いても、男性読者の支持は得にくい。
ヒロインは、ある種の到達点でもある。
「じゃあ、物語が続いている途中で主人公とヒロインが結ばれそうになったら?」
「何らかの要因で邪魔を入れる」
告白が遮られる。
すれ違いが生じる。
あるいは、気づかないふりをさせる。
ラブコメにおいて、くっつかせない工夫は必須だ。
「主人公がヒロインを好きになった場合は?」
「構成次第だな。最初から想いを持っているタイプもある」
「ヒロインから好かれる形式なら?」
「恋愛感情を極力持たせない主人公にする――」
言いかけたところで、伊代が軽く手を上げた。
「これ以上は過干渉になる。察してほしい」
それは、ほぼ答えを言っているようなものだった。
「要するに、君の感情が世界を歪ませている」
伊代は結論を告げる。
「これまで積み重なった不自然な修正による歪みは、すべてヒロインへ流れていく」
「……どういう意味だ」
「覚悟したまえ。君のヒロインは、不憫なほどラブコメの洗礼を受けることになる」