疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第335話 修正力で裸にされた幼馴染

 伊代は、言葉を言い切るより少し早く、その姿を失った。

 湯気に紛れたわけでも、光に溶けたわけでもない。

 最初からそこにいなかったかのように、視界から抜け落ちた。

 

「……おい」

 

 呼びかけても返事はない。

 湯船の縁に残っていたはずの気配も、すでに消えていた。

 

 静寂が戻る。

 屋上露天風呂には、昼の風と湯の音だけが残った。

 その直後だった。

 

「か、カナタぁ……」

 

 背後から、ヨシノリの声がする。

 おかしい。ここは男湯のはずだ。

 

「どうしたんだヨシノリ」

「いや、その……」

 

 言葉を濁す気配。

 振り返るより先に、嫌な予感が背筋を走った。

 

「ちょ、おま、なんて恰好してんだよ」

 

 視線を向けた瞬間、異変ははっきりと理解できた。

 振り向いた先には、一糸まとわぬ姿のヨシノリが手で局部を隠した状態で立っていたからだ。

 

「ちょっと見ないで!」

「悪い」

 

 俺はヨシノリから視線を切る。

 

「なんで裸で男湯に来てるんだよ。のっぴきならない事情で男湯入るにしても浴衣くらい着ろ」

「だって、外から声かけても気づかなかったじゃない」

「外ってお前……全裸で外出たのか」

「仕方ないじゃない! 浴衣が消えちゃったの! 下着もタオルも全部!」

「えぇ……」

 

 十中八九、さっき伊代が言っていた歪みというやつだろう。

 

「そういうことなら、俺が部屋から服を取ってくれば解決だ。女湯でちょっと待ってろ」

 

 俺は浴衣を着て外へ出る。すると、開けっ放しになっていた扉が閉まっていた。

 

「ちょ、何で開かないんだよ……!」

 

 この不自然な状況から歪みの正体がわかった気がする。

 ラブコメ定番のアレ。読者へのサービスシーン。ラッキースケベである。

 となると、世界が強制的にやらせようとしているシチュエーションは推測できる。

 ヒロインが部屋まで全裸まで戻らなきゃいけないハプニングだ。

 もう一回やってるのよ、それは。

 

「ヨシノリ、すまん。呼べそうにないからこのまま戻るぞ」

「は? いやいやいや!」

「安心しろ。俺の浴衣を着れば――ん?」

 

 浴衣を脱ごうと腰元に手をやった瞬間、異変に気づく。

 

「……なんだこれ」

 

 浴衣の紐が、異様なほど固く結ばれている。

 ほどこうとしても、指が滑る。

 力を入れても、結び目は微動だにしない。

 

「いや、嘘だろ」

 

 再び引っ張るが、緩む気配はない。

 

「諦めろ。全裸スニーキングミッション開始だ」

「なんでこうなるのよ!」

 

 理不尽にも程があるが、世界の修正力ならば仕方ない。

 仕方ないが、ヨシノリには全裸で部屋まで戻ってもらうとしよう。

 本っ当に仕方ない。いやぁ、参っちゃうねこりゃ。

 

「どうしてこんなことに……」

 

 ヨシノリは歯を食いしばり、深呼吸する。

 

「部屋まで、戻らないと……絶対、後ろ見ないでよ」

「命に誓う」

 

 俺は後ろにヨシノリを伴って慎重に露天風呂をあとにした。

 イベントフラグが立ったからか、扉は自然と開いた。

 

「これで感情を動かすなは無理でしょ」

 

 そういえば、俺が30超える頃にはラブコメって割と過激なの増えてたな……。

 

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