疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
中学の入学式は、桜が散り始めた四月の午後だった。
新しい制服に袖を通し、まだ少しぶかぶかのセーラー服を着て、あたしは校門をくぐった。
「おはよう、ヨシノリ」
振り返ると、見慣れた顔があった。
カナタこと田中奏太。
幼稚園からの幼馴染で、いつも一緒にいた男の子だ。
「おはよ! カナタも同じクラスなんだ!」
「……ああ。みたいだな」
カナタは小学六年生くらいから不愛想になった。理由はわからない。
それでも、一緒のクラスなのは嬉しい。
キクりん、シューヤ、平井の三人は別の中学に行ってしまった。
そんな中で、新しい環境に知ってる顔があるのは心強かった。
「これからもよろしくね」
「ああ」
カナタは短く答えて、教室へ向かった。
あたしもその後ろを追いかける。
中学一年の一学期は、小学校の延長みたいな感じだった。
休み時間になれば、あたしはカナタの席に行って話しかける。
「ねえねえ、昨日のテレビ見た?」
「見てない」
「えー、面白かったのに!」
「……そうか」
会話は相変わらず短いけど、ちゃんと返事はしてくれた。
一緒に帰ることもあった。
通学路を歩きながら、他愛もない話をする。
「食堂のごはん、あんまりおいしくないね」
「そうか? 俺は普通だったけど」
「カナタって、昔から味覚おかしいよね」
「母さんの飯食ってりゃそうなる」
そんな会話が、当たり前にあった。
だから、カナタが少しずつ変わり始めていることに気づかなかった。
「カナタ、一緒に帰ろ」
「悪い、今日は用事がある」
一緒に帰るのを断られることが、増えていった。
理由は毎回違うけど、共通していることがあった。
カナタは、あたしの顔を見なくなった。
「そういや、由紀って田中君と同小なんだっけ」
「うん。それがどうしたの?」
「いや、あだ名で呼んでるし、仲良さそうだと思ったけど田中君のほうは避けてるっぽいから気になって」
友達にも指摘されるようになった。
夏休みが明けて、二学期になった。
カナタの態度は、さらに変わっていった。
「カナタ、昨日のドラマ見た?」
いつものように話しかけると、カナタは教科書から顔を上げなかった。
「見てない」
「えー、すっごく面白かったのに」
「……そうか」
それだけだった。
会話が、そこで終わった。
最初は気のせいかと思った。
でも、週を追うごとにカナタの返事はどんどん短くなっていった。
「カナタ、明日一緒に帰ろう」
「悪い、今日は用事がある」
一緒に帰るのも、断られることが増えていった。
理由は毎回違うけど、共通していることがあった。
カナタは、あたしの目を見なくなった。
秋になっても、状況は変わらなかった。
カナタが図書室にいると知ったのは、偶然だった。
友達が、放課後の図書室でカナタを見かけたと教えてくれたのだ。
「田中君、最近いつも図書室にいるよね」
「えっ、そうなの?」
「うん。すっごい真剣な顔で何かしてる」
その話を聞いて、あたしは図書室へ向かった。
廊下の窓から、図書室の中を覗く。
奥の席に、カナタが座っていた。
机の上には本が何冊か積まれていて、その隣に開かれたノートがある。
カナタは、そのノートに何かを書いていた。
ペンを走らせては止まり、また書き始める。
その横顔は、あたしが知っているカナタとは違っていた。
すごく、真剣だった。
何を書いているのかは、わからない。
あたしは声をかけられなかった。
邪魔しちゃいけない。
そんな気がして、そのまま廊下を引き返した。冬になっても、あたしは何度も図書室に足を運んだ。
やっていることは、毎回同じだった。
カナタは同じ席で、同じようにノートに向かっている。
たまに本を読んでまた書く。
それを繰り返している。
「カナタ……」
小さく呟いても、届くはずがない。
ガラス一枚挟んだ向こう側で、カナタは自分の世界に入り込んでいた。
休み時間も、昼休みも、放課後も。
カナタは、いつも図書室にいた。
あたしと話す時間は、どんどん減っていった。
「おはよう」
「……ああ」
「今日、暑いね」
「そうだな」
「あのさ――」
「悪い、急いでるから」
会話は、挨拶程度になった。
カナタの返事は、どんどん短くなっていく。
どうして、と聞きたかった。
何があったの、と聞きたかった。
でも、聞けなかった。
カナタの疲れた顔を見ると、言葉が出なくなった。そして、二年生になった。