疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
「……は?」
「だ、だから! 一緒に入ろうかなって!」
ヨシノリが慌てて続ける。
「別に変な意味じゃないから! ただ、二人で旅行に来たんだし、せっかくの露天風呂だし、思い出になるかなって!」
「いや、それは……」
俺の頭の中で、神野塚伊代の言葉が蘇る。
『君の感情が世界を歪ませている』
『覚悟したまえ。君のヒロインは、不憫なほどラブコメの洗礼を受けることになる』
これ以上、感情を動かすのはまずい。
ヨシノリに向けられる感情が強くなればなるほど、世界の修正力が働く。
そして、その歪みは全部ヨシノリに向かう。なんなら、この提案すら歪みかもしれない。
「カナタ?」
「……すまん、やっぱり別々のほうが」
「一線は越えないから!」
ヨシノリが遮るように言った。
「一線を越えなければ大丈夫なんでしょ!」
「……え?」
俺は思わず聞き返した。
「いや、その……」
ヨシノリが少しだけ視線を落とす。
「お母さんたちが言ってたじゃん! 一線を超えないことって!」
「そういう意味じゃないだろ」
付き合ってもいない男女で一緒に風呂に入るのは、割とアウトだと思う。
「でも、大丈夫でしょ?」
「……どうして、そう思うんだ」
「だって、今まで一緒にいて、何も起きてないじゃん」
ヨシノリは肩をすくめる。
「手を繋いだり、隣に座ったり、一緒にご飯食べたり。それで問題なかったんだから」
「いやいやいやいや! レベルが違いすぎるだろ!」
「露天風呂も一緒に入るくらいなら、大丈夫だって」
ヨシノリは真っ直ぐに俺を見つめる。
「もちろん、タオルは巻くし、ちゃんと距離も取るから」
その目は、どこか必死だった。
うーん、これは間違いなく世界の修正力の影響はあるだろうな。
「……わかった」
俺は折れた。正確には、場の空気に流された。
ヨシノリの真っ直ぐな目を見ていると、断る理由が見つからなかった。
「ホント!?」
「ああ。ただし、約束を守れよ」
「当たり前じゃん!」
ヨシノリは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、俺は少しだけ不安を感じる。
本当に、大丈夫なのだろうか。
世界の修正力は、こんな些細なことでは動かないのだろうか。
「じゃあ、先に着替えてくるね」
ヨシノリは浴衣を脱ぎながら、洗面所へと向かった。
俺も自分の着替えを用意しながら、深く息を吐く。
修正力が働いたのは、感情が一定のラインを越えたときだけだ。
手を繋ぐ程度なら、問題はなかった。
隣に座るだけなら、何も起きなかった。
だから、露天風呂に一緒に入るだけなら大丈夫なはずだ。
俺が心を強く持てばいいだけの話だ。