疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
「カナタ、準備できた?」
洗面所から、ヨシノリの声が聞こえる。
扉越しに届く声は、少しだけ高い。緊張しているのが伝わってくる。
「ああ、今行く」
俺はバスタオルを手に取り、露天風呂へと向かった。
板張りの床を踏むと、ひやりとした感触が足裏に広がる。
屋外になったスペースに入ると、外の空気が流れ込んできて、肌が冷える。檜の香りが濃くなって、湯気が視界を白く染めていた。
檜の湯船には、すでにヨシノリが入っていた。
バスタオルを胸元までしっかりと巻き、肩まで湯に浸かっている。
髪は後ろでまとめていて、うなじのラインが露わになっていた。
湯気の中で、その輪郭がぼんやりと揺れている。
「なんか、すごい緊張するね」
ヨシノリの声は小さくて、吐息に近い。
「さすがに、俺も緊張するぞ」
こんな状況、人生で初めてだ。
幼馴染と二人きりで露天風呂。緊張しないほうがおかしい。
俺も同じようにバスタオルを腰に巻き、反対側から湯に入る。
足を湯に沈めた瞬間、じんわりとした熱が広がる。
ゆっくりと腰を下ろすと、身体全体が温かさに包まれた。
檜の香りと温泉の匂いが混じり合い、心地いい。
「あったかい……」
ヨシノリが小さく息を吐く。
その声には、安堵が混じっていた。緊張が少しだけ解けたような、柔らかい響き。
「ああ。気持ちいな……」
俺も湯に身を沈める。
肩まで浸かると、疲れが溶け出していくような感覚がある。今日一日歩き回った疲れ、電車での移動の疲れ、全部が湯の中に流れていく。
夜空には星が見えていて、波の音が遠くから聞こえてくる。
確かに、これは人生で何度あるかわからない贅沢だ。
静寂が、心地よく二人を包んでいる。
湯船の中で聞こえるのは、湯が揺れる音と遠くの波音だけ。
時々、ヨシノリが息を吐く音が混じる。
「今日、ホントに来てよかった」
ヨシノリが、湯船の縁に腕を置きながら言う。
指先が縁を軽く叩いて、小さな音を立てた。
「色々あったけど、楽しかった」
「それなら良かった」
確かに色々あったが、ヨシノリが楽しかったと言ってくれるなら、それでいい。
「うん」
ヨシノリは笑顔で頷いた。
その笑顔は、湯気の向こうで少しぼやけて見える。それでも、本物の笑顔だとわかる。無理をしていない、心からの笑顔。
その笑顔を見て、俺も少しだけ肩の力を抜く。
大丈夫だ。一線を越えなければ、何も起きない。
世界の修正力は、感情が一定のラインを越えたときに働く。
今はまだ、そのラインを越えていない。
こうして一緒に温泉に入るくらいなら、許容範囲のはずだ。
そう信じながら、俺たちは静かに露天風呂の時間を過ごした。