疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
第345話 それは世界にとって禁断の想い
星空の下、檜の香りに包まれながら。
波の音だけが、夜の静寂を優しく満たしてくれる。
時間の流れが、ゆっくりになったような気がした。
湯に浸かっていると、身体の感覚が曖昧になる。
どこまでが自分の身体で、どこからが湯なのか、境界線が溶けていくような感覚。
ヨシノリも同じように感じているのか、目を閉じて星空を仰いでいる。時々、小さく息を吐いて、また湯に身を沈める。
静かな時間が流れる。
何も話さなくても、居心地が悪くない。
幼馴染だからこそできる、この距離感。
しばらくして、ヨシノリがふと口を開いた。
「あたし、ずっと思ってたことがあるんだ」
その声は、さっきまでとは少し違う。
何かを決意したような、覚悟を決めたような響き。
「何だ?」
俺は視線をヨシノリに向ける。
ヨシノリは湯船の中で膝を抱え、星空を見上げた。
その横顔は、真剣だった。湯気の向こうで、表情がはっきりとは見えない。
それでも、緊張しているのが伝わってくる。
波の音が、一際大きく聞こえた。
風が吹いて、湯気が流れる。
ヨシノリの髪が、わずかに揺れた。
「カナタは、あたしのこと好き?」
その言葉が、静寂を破る。
俺の思考が、一瞬止まる。心臓が、大きく跳ねた。
「急にどうしたんだ」
どうにか声を出す。
冷静を装おうとして、声が少しだけ上ずった。
喉が渇いていて、言葉がうまく出てこない。
「いや、ちょっと気になってさ」
ヨシノリは視線を俺に向ける。
その目は、真っ直ぐだった。冗談を言っているわけじゃない。本気で聞いている。
湯船の中で、湯が揺れる音だけが聞こえる。
俺の心臓が、激しく鳴っている。
「ちょっと気になってするような質問じゃないだろ」
どうにか言葉を返す。
視線を逸らそうとして、逸らせない。ヨシノリの目が、俺を捉えて離さない。
「バレたか」
小学生の頃、悪戯がバレたときのようにヨシノリは笑う。
その笑い方は、昔と変わらない。少しだけ照れくさそうで、それでいて屈託がない。緊張した空気が、一瞬だけ緩んだ。
「こういう心に余裕がないときならうっかり本音でしゃべってくれるんじゃないかなって……でもね」
ヨシノリが小さく笑う。
「今日みたいに、こうして一緒にいられるなら、それでいいかなって思うんだ」
「……ヨシノリ」
「だから、ありがとね」
その言葉に、俺の胸が痛んだ。
……ダメだ。
ヨシノリは、俺を受け入れてくれている。
……このままじゃ、ダメだ。
今のままでいられるのならそれで――いいじゃないか。
……このままじゃ何のために……。
「こちらこそ、一緒に来てくれてありがとな」
「うん」
ヨシノリは満足そうに頷き、再び星空を見上げた。
……現状に甘んじるな。
この時間が、ずっと続けばいい。
……変えるんだ。
そう思いながら、俺も夜空を見上げた。
……自分の気持ちを思い出せ!
「そうだ、そうだった……ヨシノリ、俺はお前のことが――」
『あーあ。だから言ったのに』
その瞬間、どこか呆れたような声がした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目が覚めると、見覚えのある天井が目に入った。
そうだった。確か今は春休みだった。
高校二年生になっても、どうせ変わらない日々が待っている。
文芸部は正直原先輩くらいしかまともな部員いないからなぁ。
「ん? ……んー、なんか忘れているような」
とても大事なことを忘れている気がする。だけど、思い出せない。
「やっべ、春休みの宿題!」
読書に明け暮れていてすっかり忘れていた。
小説の執筆もそこそこに、俺は春休みの宿題を片付けるのだった。