疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第346話 いつもの日常?

 ベッドから降りて、制服に着替える。

 シャツのボタンを留めながら、窓の外を見る。曇り空だ。雲が低く垂れ込めていて、今にも雨が降りそうな気配がある。

 新学期の初日から、あいにくの天気だった。

 洗面所で顔を洗う。冷たい水が頬を伝って、少しだけ目が覚める。

 

 タオルで顔を拭いて鏡を見る。

 いつもと変わらない顔が、そこにあった。

 特に何の感情も浮かんでいない、ただの高校生の顔。目の下に少しだけクマができているのは、昨夜遅くまで本を読んでいたせいだ。

 髪を適当に整える。寝癖がついているが、直すのも面倒だ。手櫛で軽く撫でつけて、それで終わり。

 

 階段を降りると、木の階段がきしむ音が静かな朝に響く。

 リビングに近づくと、テレビの音が聞こえてきた。

 朝のニュース番組が、何かの事件について報じている。アナウンサーの声が、淡々と事実を伝えている。興味のない話題だった。

 

「おはよう」

 

 リビングのドアを開けて、声をかける。

 愛夏が、キッチンで朝食の準備をしていた。

 フライパンで玉子焼きを焼いている。油の弾ける音が小さく聞こえて、甘い匂いが漂っている。味噌汁の湯気も立ち上っていた。

 

「おはよ」

 

 愛夏の返事は短く、素っ気ない。

 こちらを見ることもなく、フライパンに視線を落としたまま答える。表情は見えない。

 背中だけが、こちらを向いている。

 俺は何も言わずに、リビングを通り過ぎる。

 

 それだけだ。それ以上の会話はない。

 

 兄妹なのに、まるで他人のようだ。

 いつからこうなったのか、もう覚えていない。小学校の頃は、もう少しマシだった気がする。一緒にゲームをしたり、テレビを見たり、そういう時間もあった。

 中学に入ってから、徐々に距離ができた。

 

 お互いに干渉しなくなった。挨拶も必要最低限。会話も用件だけ。

 今では、同じ家に住んでいるだけの関係になっている。

 俺も愛夏も、それで特に問題があるとは思っていない。

 そういうものだと、受け入れている。

 諦めていると言ってもいいかもしれない。

 

「ご飯あるから」

 

 愛夏がフライパンを火から下ろしながら言う。

 玉子焼きを皿に移して、テーブルに置く。

 その動作は手慣れていて無駄がない。

 母親が朝早くから仕事に出ているため、朝食は愛夏が作ることが多い。

 

「いつも悪いな」

 

 愛夏は何も答えなかった。ただ、自分の分の準備を続けている。

 テーブルに座り、箸を手に取る。

 味噌汁の椀を持ち上げると、湯気が顔にかかった。少し熱いけど、朝はこのくらいのほうが目が覚めてちょうどいい。

 愛夏がやけに不愛想のような気がする。

 

 いつもより、冷たい感じがするが……いつも通りか。

 

 ご飯を口に運ぶ。噛んで、飲み込む。その繰り返し。

 テレビからは、相変わらずニュースが流れている。天気予報に変わって、今日は午後から雨が降るらしい。傘を持っていったほうがいいだろう。

 食事を終えて、箸を置く。

 

「ごちそうさまでした」

 

 両手を合わせると、愛夏が顔を上げた。

 

「え?」

 

 目を見開いて、こちらを見ている。

 

「お兄ちゃん。今日は猫まんまにして口の中に流し込まないんだね」

「えっ、俺そんな食い方してたか?」

 

 記憶を辿ろうとして、頭の中がぼやける。

 いつもどうやって食べていたのか、はっきりしない。いや、そもそも普段の栄養補給で食べ方とか気にしたことなかったけど。

 

「いつもしてるでしょ。なんか変なものでも食べた?」

 

 愛夏が不審そうな顔でこちらを見る。

 

「別に。普通に食っただけだ」

「ふーん?」

 

 愛夏は納得していない様子だった。

 首を傾げて、じっとこちらを見ている。

 それでも、それ以上追及してこなかった。興味がないのか、面倒なのか。すぐに視線を戻して、自分の朝食に向かう。

 俺は席を立ち、食器を流しに運ぶ。鞄を持って玄関へ向かう。

 

「行ってきます」

 

 声をかける。

 

「行ってらっしゃい」

 

 愛夏は振り返りもせずに答えた。

 テレビを見たまま、箸を動かしている。

 俺の存在など、もう意識にないのだろう。

 

 玄関を出て、ドアを閉める。

 外の空気が、冷たく顔にあたった。

 朝の空気は冷たくて、四月とはいえまだ肌寒い。

 吐く息が、わずかに白く見える気がした。

 空を見上げる。やはり曇っている。雲が厚くて、太陽の光はほとんど届いていない。

 

 駅へ向かう道を歩きながら、また違和感が襲ってくる。

 何か、忘れている。大事な何かを、忘れている。

 思い出そうとしても、靄がかかったように、ぼやけている。

 

「ま、気のせいか」

 

 首を振って、考えるのをやめる。

 考えても、答えは出ない。

 

 駅に着いて、改札を通る。

 ホームには、すでに何人もの人が並んでいた。

 通学する学生、出勤するサラリーマン。みんな無言で、電車を待っている。

 電車が来て、ドアが開く。人の流れに押されるように、車内に入る。

 

 隣に誰かが立って肩が触れるが、気にならない。

 窓の外を眺める。景色が流れていく。住宅街、ビル、川。見慣れた風景が、次々と過ぎ去っていく。

 

 変わらない日常。何も特別なことがない、ただの一日の始まりだった。

 

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