疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す   作:サニキ リオ

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第349話 あの日々を、全部取り戻す

「それで、二周目の伊代は何て言ってた?」

 

 俺の問いに、伊代は表情を引き締める。

 さっきまでの明るい雰囲気が、少しだけ変わった。真剣な顔になって、言葉を選ぶように口を開く。

 

「田中先輩は世界の主人公から外れて、修正力の影響で魂が並行世界、元の現実世界に弾かれたって言ってました」

「つまり、ここは一周目の世界ってわけか」

 

 元の現実世界ということはそういうことだ。

 俺が元々いた場所。ヨシノリも、ナイトも、アミも、喜屋武も、ゴワスもいない世界。

 愛夏とは冷え切った関係で、友達も呼べるほどいない、灰色の日常。

 それが、この世界だ。

 

「ヨシノリは二周目の世界に残ってるのか」

「そうみたい、です」

 

 伊代の表情が曇る。

 その顔には、申し訳なさそうな色が浮かんでいた。言いにくいことを言わなければならない、そんな空気が伝わってくる。

 

「あの世界の佐藤由紀さんは元の世界にいる。そして、その世界にはただの執筆マシーンに戻った舞台装置と化した田中先輩があっちにはいる状態です」

 

 その言葉が、胸に刺さる。

 執筆マシーン。舞台装置。

 自分が世界から不用品と言われたようで心が痛む。

 

 修正力の影響がなくなったからか、一周目の世界の記憶も虫食いではなくすべて思い出せるようになっていた。

 愛夏との関係、学校での立ち位置。全部、鮮明に蘇ってくる。

 それと同時に、二周目の記憶も並行して存在している。

 

 二つの世界の自分。二つの人生。

 

 比較すると、いかに二周目の自分が強固な枠に囚われていたかが理解できてしまう。世界の修正力という見えない檻の中で、恋愛感情を抑え込まれていたのだ。

 

「問題はどうやって二周目の世界に戻るかだ」

 

 俺の言葉に、伊代の顔が明るくなる。

 

「お手伝いしますよ! こう見え、並行世界じゃ神代行ですから!」

 

 伊代はふんす、と鼻息荒く両手を握りしめる。

 その仕草は、やっぱり普通の高校生のものだ。神の使いとしての威厳も、上位存在としての落ち着きもない。年相応の少女が、非日常に興奮しているだけだ。

 

「ああ、頼む。俺一人じゃできることに限界がある」

 

 想いも伝えずに、ヨシノリを置いていくわけにはいかない。

 あの日々を、全部取り戻す。

 

「じゃあ、ひとまず連絡先を交換しよう」

「オッケーです!」

 

 伊代は元気よく頷いた。

 スマホを取り出してQRコードを表示してきたので、俺もスマホを取り出して読み取る。画面に〝神野塚伊代〟の名前が表示された。

 連絡先を交換する。たったそれだけのことなのに、少しだけ気持ちが軽くなった気がする。

 一人じゃない。この世界で、協力してくれる人間がいる。

 それだけで、前に進める気がした。

 

「それにしても、よかったのか。この世界の伊代はただの人間だろ」

 

 俺の言葉に伊代は少しだけ照れくさそうに笑う。

 

「私もこの非日常を楽しみたいんです。異世界とか、二周目とか、そういうの」

「ミーハーだな」

「ロマンです」

 

 伊代は再び頬を膨らませた。

 その表情を見て、俺は少しだけ肩の力を抜く。この伊代となら何とかなる気がする。

 神の使いとしての伊代は近寄りがたかったが、この伊代とは話しやすい。

 

「じゃあ、よろしく頼む」

「はい。よろしくお願いします、田中先輩」

 

 伊代は笑顔で答えた。

 その笑顔は、朝の曇り空とは対照的に明るくて、少しだけ救われた気分になる。

 

「それで、これからどうするんですか?」

「まず、二周目の世界に戻る方法を探す」

「どうやって?」

「ノープランだ」

 

 正直に答える。

 方法なんて何も思いつかない。

 異世界転移の方法を知っている人間なんて、この世界にいるわけがない。

 

 窓の外を見る。

 空は相変わらず曇っていて、雨が降り始めていた。

 窓ガラスに雨粒が当たって、小さな音を立てている。

 校庭では、傘を差した生徒たちが急いで校舎に戻ってくる姿が見えた。

 

「でも、必ず見つける」

 

 その言葉を口にした瞬間、胸の奥で何かが熱くなった。

 絶対にヨシノリのもとへ戻るんだ。

 

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