疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
放課後、俺と伊代は中庭のベンチに座っていた。
雨は小降りになっていて、屋根のあるベンチなら濡れずに済む。
周りに人はいない。雨のせいか、いつもなら賑わっている中庭も静かだった。
「作戦会議、ですね」
伊代がノートとペンを取り出す。
「大袈裟だな」
「重要な話ですから、ちゃんとメモしないと」
伊代は真剣な顔でペンを構える。
あまりにも真面目すぎる姿を見て笑いそうになった。
「まず、現状を整理しよう」
俺は言葉を選びながら話し始める。
「俺は二周目の世界から、この一周目の世界に弾き出された。ヨシノリは二周目の世界に残っている。そして、二周目の世界には俺のコピーみたいなのがいる」
「執筆マシーンと化した田中先輩、ですね」
「ああ。そいつは、ラブコメ主人公としての役割を全うさせられている」
伊代がノートに書き込む音が聞こえる。
「問題は、どうやって二周目の世界に戻るか、だ」
「そもそもファンタジーすぎて答えが思いつきませんね」
伊代は苦笑する。
「具体的な方法を考えないと」
俺は腕を組んで、考える。
異世界転移。世界線の移動。
そんなこと、どうやればいいんだ。
二周目の世界は、俺が書いた小説が具現化した世界だ。
俺が死んだ後、その世界に俺自身が主人公として転生させた。
なら、また死ねばいいのか?
いや、それは違う。
死んだら、次にどこに行くかわからない。二周目の世界に戻れる保証はない。
「先輩、友達はいますか?」
伊代の問いに、俺は首を横に振った。
「いない。二周目で作った友達がほとんどで、この世界には呼べるほどの友達はいない」
「そうなんですか」
伊代は少しだけ驚いた顔をする。
「友達多そうに見えますけど」
「一応、人格は二周目経験済みだからな」
一周目では誰とも深く関わろうとしなかった。
表面的な付き合いだけで、それ以上踏み込まなかった。
友達を作ろうともしなかった。
なぜなら、必要なかったから。
いや、諦めていたから、と言ったほうが正しいかもしれない。
「田中君!」
後ろから声がかかった。
振り返ると、原先輩が立っていた。
文芸部の部長で、唯一まともに話す相手だ。
「部室に来ないなんて珍しいな、どうしたんだ?」
原先輩が、こちらに歩いてくる。
傘を差していて、雨に濡れている様子はない。
「ああ、すみません。ちょっと用事があって」
「そうか。まあ、無理に来なくてもいいけど」
原先輩は伊代を見る。
「彼女は?」
「一年の神野塚です。ちょっと相談に乗ってもらってて」
「そうか。邪魔したな」
原先輩は軽く手を振って、去っていく。
その背中を見送りながら、俺は何かに気づいた。
二周目の世界にも、原先輩はいた。
同じ高校に同じように文芸部の先輩として。
「……そうだ、ここにはあの二人がいる」
俺は立ち上がる。
「トト先、ケイコ先輩!」
伊代が首を傾げる。
「誰ですか、それ?」
「二周目の世界にいた先輩たちだ。この世界にもいるはずだ」
俺の頭の中で、記憶が蘇る。
原先輩がいる以上、あの人と同じ中学で慶明高校のOBという情報があるトト先、そしてその幼馴染のケイコ先輩はこの世界にも、同じように存在しているはずだ。
「この二人なら、何か力になってくれるかもしれない」
希望が少しだけ見えた気がする。
伊代が立ち上がる。
「じゃあ、会いに行きましょう!」
「ああ」
俺は頷いた。
雨の音が、少しだけ小さくなっていた。
雲の隙間から、わずかに光が差し込んでいる。
まだ、諦めるには早い。
俺は二周目の世界を取り戻すための、最初の一歩を踏み出した。