疎遠になってた元ガキ大将のムチムチポニテ幼馴染との青春を高校生活から書き直す 作:サニキ リオ
「ねぇ、君」
声がした。
振り返ると、ケイコ先輩が立っていた。
息を切らしていて、少しだけ汗をかいている。走ってきたのだろう。
俺は立ち上がろうとして、足に力が入らない。
ケイコ先輩が近づいてくる。
「さっきは、驚かせちゃってごめんね」
その声は穏やかだった。
「いえ、こちらこそ。突然押しかけて、すみませんでした」
「ううん。それより」
ケイコ先輩が、俺の隣にしゃがむ。
伊代が少しだけ場所を空けた。
「君、私のことケイコ先輩って呼んだよね」
「あ」
その言葉に、俺は固まる。
そうだ。ついいつもの癖でケイコ先輩と呼んでしまった。
ケイコ先輩の本名は東海林美晴。〝小池ケイコ〟というペンネームを知らないと、できない呼び方だった。
「どうして、私のペンネーム知ってるの?」
ケイコ先輩の目が、真っ直ぐに俺を見る。
その視線には、疑いはない。ただ、純粋な好奇心が宿っていた。
「それは」
言葉に詰まる。
どう説明すればいい?
信じてもらえるだろうか?
「……言っても信じてもらえないと思います」
「いいから、全部話してみて」
ケイコ先輩は優しく告げる。
「信じるかどうかは、聞いてから決めるから」
その言葉に俺は決心した。
もう隠してもしょうがない。
全部、話そう。
「俺は――別の世界から来ました」
ゆっくりと、話し始める。
「二周目の世界、と呼んでいる世界です。その世界では、俺も漫研に所属していました」
ケイコ先輩は、黙って聞いている。
表情は変わらない。驚きもしないし、笑いもしない。
「俺たちは、一緒に作品を作っていました。俺の小説にトト先がイラストを描いてくれて。ケイコ先輩はコミカライズを担当してくれて」
創作に没頭した記憶が、鮮明に蘇る。
「ある日、俺はその世界から弾き出されました。世界の修正力に邪魔だと判断されたんです」
ケイコ先輩の眉が、わずかに動く。
「今、俺はこの一周目の世界にいます。元の世界に戻りたくて、方法を探してるんです」
そこまで話して、俺は息を吐く。
全部話した。信じてもらえるとは思わない。
それでも、隠すよりはマシだ。
ケイコ先輩は、しばらく黙っていた。
やがて、小さく笑う。
「ドファンタジーだね」
「ですよね」
俺も苦笑する。
「信じられないですよね」
「うん。正直、信じられない」
ケイコ先輩は頷く。
「でも、嘘ついてるようにも見えないんだよね」
その言葉に、俺は顔を上げる。
「君の目、すごく真剣だから。嘘ついてる人の目じゃない」
ケイコ先輩は、遠い目をして空を見上げる。
「それに、私のペンネームを知ってる時点で何かあるのは確かだし」
「ケイコ先輩」
「まあ、全部信じるわけじゃないけど」
ケイコ先輩が俺を見る。
「とりあえず、話は聞いた。それで、私たちに何をしてほしいの?」
「力を貸してほしいんです。二周目の世界に戻る方法を、一緒に探してほしい」
「理由は?」
「俺の大切な人が、その世界にいるからです」
その言葉を口にした瞬間、胸が熱くなった。
「幼馴染が。その世界に、残されてるんです」
ケイコ先輩が小さく息を吐く。
「そっか」
優しい声だった。
「大切な人を、取り戻したいんだね」
「はい」
ケイコ先輩は、少しだけ考え込む。
メガネの奥の目が、何かを見ているようだった。
やがて、口を開く。
「それじゃあ、こうしよう」
ケイコ先輩が、俺を見る。
「君がその二周目の世界で出版されたっていうライトノベルを書いてきて。それを都々ちゃんに読ませよう」
「ポニテ馴染を、ですか?」
「内容くらい覚えてるでしょ」
ケイコ先輩は頷く。
「もし君の話が本当なら、都々ちゃんはその作品に反応するはず。で、事前に当時の反応を私に教えておいてほしいの」
その言葉の意味を、俺は理解した。
トト先は、心を動かされた作品にしか反応しない。
二周目では、ポニテ馴染を読んで、興奮気味に感想を捲し立てていた。
なら、この世界でも……!
「都々ちゃんが反応したら、君の話を信じる。少なくとも、信じる材料にはなる」
ケイコ先輩が立ち上がる。
「どう? やってみる?」
「やります!」
俺も立ち上がった。
今度こそ、希望が見えた気がする。
ポニテ馴染を、もう一度書く。
それをトト先に読んでもらう。
そうすれば、何かが変わるかもしれない。
「ありがとうございます、ケイコ先輩」
「ううん。私も、ちょっと興味があるんだ」
ケイコ先輩が笑う。
「本当に私が漫画をまた描いていたのか、確かめてみたくて」
その笑顔は、二周目のケイコ先輩と同じだった。
「じゃあ、頑張って。期待してるから」
ケイコ先輩は手を振って歩いていく。
その背中を見送りながら、俺は拳を握りしめた。
やるしかない。
ポニテ馴染を、もう一度。
それが、二周目の世界に戻るための、最初の一歩になるんだ。